処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
「……お食事で汚れると大変ですし、髪のお支度の後に着替えた方がいいと思いますので、先に召し上がってください。私は準備をしております」
「髪? べつにこのままでも」

 タオルでくしゃくしゃにしておいてなにを言うのか。
 アメリは真顔になって首を振った。

「駄目です。王としての威厳が必要なんですよね? きっちりメイクもした方がいいです」

 メイクは顔色を良く見せるし、眉を整えるだけでも凛々しくできる。
 雑用係なんて……と思っていたけれど、美男を着飾らせるというのは案外悪くない仕事だ。見た目が麗しい分、飾り甲斐もある。

「わかった。では俺の食事が終わるまで待っていろ」

 ルークは続き部屋となっている私室の方へと戻っていく。
 昨日も見たが、薄い赤の壁紙に、毛足の長いじゅうたんが敷かれた豪華そうな部屋だ。

(相変わらずギトギトした感じの部屋だなぁ)

「言っておくが、これは前王の趣味だ」

 アメリのひきつった顔を見て察したのか、ルークがポツリとつぶやいた。

「そうなんですか……」

 なんか意外だ。ルークはいつも毅然として命令口調で、人からどう思われても気にしないタイプなんだろうと思っていたのに。

「……お前は趣味がよさそうだから、部屋の意匠も思いついたら言ってくれ」
「はあ……」

 ルークはジャイルズ伯爵と共に私室に戻る。見送ったアメリは、決めた衣装をトルソーに着せ付けていった。
ジャケットにブラシをかけ、小物をいくつか選ぶ。ルークの好みもあるだろうから、いくつか選択できるようにした方がいい。

(ウィングカラーのシャツに合わせるのだから、このえんじのアスコット・タイがいいかしら。濃紺のジャケットとの相性もいいわ)

 子供の頃から、たまに外に出られるのがうれしくて、周囲を細かに観察してきた。
 子供心に、あれが似合うこれは似合わないなどとひとりで妄想していたことがこんなところで役に立つとは。
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