あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
 以降、公国は貧しいながらも平和ではある。
 ルークは堅実実直な王で、残っていた王家の財産を、国民生活の改善のために費やしてくれた。
 ボーフォート公国は農地となる土地が少ないため、生活は今だカツカツで、以前のような隆盛はとても望めない。それでも、明日の食事の心配をしないでいいくらいにはなった。

(あとは、昔のようにフローライトが採れるようになればなぁ)

 誰もがそう思ってはいるが、一度呪われてしまった土地はそう簡単には戻らないらしい。

(フローライトがいくら採れても変色してしまう。……もし、巫女姫がいれば、その呪いも解けるはず……なんてみんな言っているけれど)

 アメリは深くため息をつき、ポケットに手をやる。
 エプロンにポコリと大きなあるふくらみ、そこにはアメリの母の形見であるパペットが入っている。

《呼んだ? アメリ》
「よ、呼んでないわ!」
「ひゃっ、どうしたの急に、アメリ」

 いきなり叫んだアメリに、ジャニカが驚いて振り向いた。

「ごめん。……なんでもないの。私、タオルを戻しに行ってくるね」
「うん。お疲れー」

 ジャニカと別れ、アメリはリネン室へと足を早めつつ、ポケットに向かって小声で言った。

「……フロー、昼間は話しかけないでよ」
《ちぇー、冷たい》

 アメリの脳内に響く声。それは、アメリのポケットにあるパペットから聞こえる。
 本人曰く、名前はフロー。フローライトの精霊だ。
 これがアメリの秘密だ。巫女姫のように、精霊の声が聞こえること。

(でも精霊の声が聞こえても、呪われた土地は全然戻らないけどね)

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