処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
 しばらくすると、ジャイルズ伯爵から声がかかる。

「アメリ、ルーク様の食事が終わられたので、頼む」
「はいっ」

 ルークは椅子に腰かけたまま、無言でちらりとアメリを見つめる。
正面の机に鏡を置き、ルークの胸から上が映るように調整した。

「今日は議会ということで、強い為政者のイメージをつけたいと思います」

 まずはメイクだ。深めに影をつけて、普段のルークよりも大人びた表情を作り、髪は真ん中で分け、後ろに流す。ルークは目力があるので、額を出し目がよく見えるようにすると、強い印象が与えられる。

(うわあ、やっぱり格好いいなぁ)

 美形すぎて眩しい。見ていると顔がにやけてしまいそうなので、できるだけ目を合わせないようにする。

「着替えはこちらになります」

 トルソーにかけた状態の衣服一式を見せれば、ずっと固かったルークの頬が少し緩んだ。

「……いいと思う。シンプルだが存在感はある」
「あ、ありがとうございます」

 ルークが躊躇なくガウンを脱ごうとしたので、アメリは一瞬パニックになった。
 通常の衣装係だとしたら、着替えにはどこまで手を出すものなのだろう。

(いやでも、半裸は見られないわよ)

 うつむいて目をそらしつつ、シャツを手渡す。

「ま、まずはシャツを着てください」

 そして背中を向けて着終わるのを待っていると、「おい」と声をかけられる。

「手伝え」
「あの、でも、い、衣装係って選ぶだけではないんですか? ちょっと恥ずかしくて」

 着替えの動作は、プライベート感が強いせいか、妙にドキドキしてしまう。

「他のメイドなら喜んで寄ってくるがな。まあいい。では着替えたら呼ぶ」

 しばらくすると「着替えたぞ」とお呼びがかかる。
 どうやら恥ずかしがっている間にジャケットまで自分で着てくれたようだ。

「うわあ……素敵」

 ルークはアメリが想像したよりもずっと素敵に服を着こなしていた。
 目が合うと、ルークは奇妙な表情をした。

「……?」

 その意図がつかめないまま、アメリは彼の首元に手を伸ばす。

「ええっと、タイを直させていただいてもいいですか?」
「ああ」

 少し傾いていたタイを結び直し、フローライトのブローチを止める。
 ルークはされるがままに受け入れ、じっとしていてくれた。
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