処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
「うん。お似合いです。こちらのブローチは、バイカラーフローライトといって、二色が混じった希少なものです」
「色が変わるのはなぜなんだ?」
「フローライトは基本無色透明で、含有物によって色が変わると言われていますね。このように綺麗にまっすぐなラインになっているのは珍しいんですよ」
「ふむ」

 彼は指でブローチの表面をなぞる。整えられた綺麗な爪が、水たまりの上に浮かんでいるようにも見えた。

「フローライトか。なぜ変色するようになってしまったんだろうな。あれが無ければ、この国もここまで困窮しなかったんだが」
「……そうですね」

 フローは悪しき力のせいだと言っていた。それがなんなのかは、アメリにもわからない。

「巫女姫という存在を聞いたことがあるか?」
「……!」

 思いがけない言葉が出て来て、持っていたブラシを取り落としてしまった。

「失礼しました!」
「いや、いいが。国内では有名な話らしいな。巫女姫がいた頃は、フローライトは潤沢に採れていたし、鉱山での事故もほとんどなかったと。巫女姫が失踪したことで、精霊はこの国を守護するのを辞めたのだとな」
「えっ……」

 アメリは少し疑問に思う。
 フローは巫女姫ひとりに加護を与えていたわけじゃない。国全体を守っていたはずだ。
 それに、フローは今も国を守ろうとしている。そのために必死に精霊石を探しているのだ。

「……精霊は巫女姫だけに加護を与えていたわけではなく、国そのものに恩恵を与えていたと思いますよ。ただ、精霊と会話できたのが巫女姫だけだというだけです」

 ポケットの中でフローが動いた気配がする。おそらくは肯定しているのだろう。

「そうなのか?」
「巫女姫は切れ間なく現れるわけではありません。巫女姫がいない時代だってありましたよね。でも、フローライトが採れないなんてことなかったと思います」
「であれば、なぜフローライトは採れなくなった? フローライトが黒く変質するのも、ここ十年くらいしか報告されていない。これは、精霊が国を見放したからではないのか?」

 ルークの表情が真剣みを帯びてくる。アメリはどこまで話していいのか迷いながらも続けた。
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