処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
「精霊は、この国を見放したりしていません。黒く変質するとはいえ、採れないわけではないのですから。むしろ、別の力がかかっているとか、精霊が力を出せない状態になったと考えた方が自然では?」
「ふむ」
ルークが興味深げに頷き、アメリを凝視している。アメリは内心、冷や汗が止まらない。
(余計なことを言ったかもしれない。ごめんフロー)
「な、なんですか」
「いや、お前にわかる話じゃないと思っていたから、返答があって驚いただけだ」
「あ、そ、そうですよね。いや、すみません、適当に言っただけで」
とにかく笑ってごまかそう。アメリはルークの肩を掴んで無理やり前を向かせる。
「さっ、仕上げをしますねー」
さっき完璧に仕上げた髪を、もう一度とかしてごまかしていると、ルークがぽそりと言った。
「……王族を処刑したのは俺だ。そのせいで、もう巫女姫は生まれないと言われ、責任を感じていたところだが、お前の考えがあたっているなら、まだ国の復興は諦めなくてもいいことになるな」
言葉自体はさらっとしていた。だけど、彼は彼なりの苦悩を抱えてきたのだろうか。
アメリが手を止めると、ルークは終わったと思ったのか、立ち上がった。
「悪くない。ぎらぎらした派手さはなく、だがしっかり華やかにはなった」
「ルーク様はお顔が華やかですからね。本当はもう少し色味を足せばいいと思うんですけど」
「例えば?」
「イエローフローライトとか。希少ですけど綺麗ですよ? 透明感があるので、紺や深緑の色合いとも合うと思います」
「ふむ」
想像してみて、おそらくはよく思えたのだろう。口もとはいつもよりも緩んでいた。
「おお、閣下が笑っている! 珍しいですね!」
アメリが内心思っていたことを、脇から見ていたジャイルズ伯爵が口にした。すると、一瞬でルークの表情は冷徹なものへと変わってしまう。
「ああ?」
声にも威圧感たっぷりだ。
「またすぐ怒る。そんな言い方していると女性は怖がりますよー。そもそも顔が怖い。さっきみたいに笑ってください」
「うるさい!」
言えば言うほど、ルークの機嫌を損ねているジャイルズ伯爵がなんだか不憫だ。
「……なんだ。なにを笑っている」
我慢していたつもりだったが、表情が緩んでしまったらしい。