処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
「……はああー」
緊張が解け、アメリは大きなため息とともに、その場に座り込んだ。
《でてもいい? アメリ》
ポケットがもぞもぞと動く。
もう誰もいないので、アメリは「いいわよ」と答える。同時に、パペットに入ったフローが飛び出してきた。
《ふう、自由だー》
パペットの腕がピーンと伸びた。精霊でもポケットの中は窮屈とかいう感覚はあるらしい。
フローはふわりと浮き上がり、続き間であるルークの部屋へと向かっていく。アメリは慌ててパペットを追い、手に掴んだ。
「駄目よ。勝手に荒らしてはいけないわ。気配で探って」
《えー。無茶言う……》
「この部屋を守るのも私の仕事……」
言い切る前に、突然、廊下側の扉が大きく開いた。
「きゃっ」
驚いて振り向くと、ジャイルズ伯爵とルークが押しあうようにして入ってくる。
「私が取って来るといったでしょう」
「お前では場所がわからんだろうが。……ん?」
ルークはアメリに目をやると、動きを止めた。
「お前……、なんだ? それ」
彼の視線は、アメリの手の中にあるパペットに注がれている。
とっさに捕まえたから、フローが飛んでいたのは見られていないと思うが、ひやひやものだ。
アメリは一瞬焦ったが、すぐに作り笑いでごまかした。
「ル、ルーク様、お早いお戻りで」
「人形か? ははっ、アメリも案外かわいらしい趣味があるんだな」
先に声を発したのはジャイルズ伯爵だ。からかい交じりの口調に、アメリの顔が赤くなる。
「だが仕事中だ。人形遊びは控えてもらわねば」
「す、すみません」
「悪いが預かろうか」
大きな手が、アメリの前に差し出される。でも、このパペットを取られるわけにはいかない。
アメリはギュッとパペットを抱きしめると、必死に抵抗した。
「すみません。部屋に置いてきます。だから取らないでください」
「だが……」
「母の形見なんです」
ロバートの顔から笑顔が消える。同情されたいわけではないが、こうでも言わないと取られてしまうので、悲壮感をあえて表に出してみる。