あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
「母が作ったそうなんです。これしか、思い出がないので。……その」
「いつもポケットが妙に膨らんでいると思っていたが、パペットが入っていたんだな」

 ルークの声が、ふたりの間に割って入る。とはいえ、彼自身の視線は本棚の方に向いていた。迷いもなく手を伸ばし、緑色の背表紙の本を取り出す。

「……持っていて、仕事に支障があるわけじゃないだろう。それに必要に応じて休憩してもいいと俺は言ったはずだ。べつに咎めるようなことじゃない」
「閣下」
「時間までに、この部屋が片付いていればいいんだ。ロバートあったぞ。これで問題ない。行くぞ」
「は、はい」

 ジャイルズ伯爵の気まずげな視線に、アメリは頭を下げることで答える。
 部屋から出る間際に、ルークは一度だけアメリを振り返った。

「部屋に置いてこなくてもいい。ちゃんと持っていろ」
「あ、ありがとうございますっ」

 そのまま、アメリの返事もお礼も聞かずに出て行ってしまう。

「……よかった」

 安堵で体の力が抜けてきた。

《ふー、焦ったな、アメリ!》
「うん。ほんとに、……取られたらどうしようかと思ったよ」

 母の形見だと強く意識していたわけではなかったが、自分にとってこのパペットは結構大事なものだったようだ。取られると思った瞬間、身震いがした。
 だからこそ、所持を許してくれたルークには感謝の念が湧いた。

(恩返しじゃないけど、お部屋、ちゃんと綺麗にしよう。ルーク様が過ごしやすいように)

 ベッドからシーツをはぎ取り、リネン室からシーツを持ってきて付け替える。皺ひとつないようにピンと伸ばして、枕カバーなども取り換えていく。

(よく眠れますように)

 テーブルも、ソファも丁寧に拭いて、ここが彼にとって、居心地のいい場所であれと願う。
 どことなく空気も綺麗になったように、アメリには感じられた。
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