処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
* * *

 午後になり、ルークとジャイルズ伯爵が戻ってくる。

「ずいぶん綺麗にしたんだなぁ、アメリ」
「任せてください。掃除は得意なんです」

 胸を張ってそう言って、ルークの方をじっと見つめる。

「ご苦労」

 しかし、ルークの反応はあっさりしたものだ。

(あれ、なんだ。こんなものか)

 パペットを持っていてもいいと言われて、うれしくて張り切ってしまったが、ルークにしてみれば、使用人が仕事をするのはあたり前のことだ。出来栄えに喜んだりするわけがなかった。

(私、なにを期待していたんだろ……)

 そう思ったら、急に恥ずかしくなってきた。
 ルークはジャケットを脱ぐと、アメリの手に預ける。

「今日はそれの手入れをしたら、もう休め」

 脱いだばかりのジャケットには彼のぬくもりが残っていて、アメリの手をじんわり温める。

「え? でもまだ時間が……」
「今までの部屋付きメイドの誰よりも、部屋を綺麗にしている。すごいとは思うが、毎日これではお前が持たないだろう。今日の仕事としては十分だ。後は明日でいい」
「でも……」

 困ってジャイルズ伯爵を見ると、「閣下がそう言ったら聞かないので、ジャケットの手入れだけ頼む」と頷かれた。
 アメリとしては、困惑だ。

(どうしよう。やりすぎだったの? それともなにか気に入らないことがあった?)

 今までされたことのない対応に、不安しか湧かない。

「あ、あと。この服はよかった。明日の服も今のうちに選んでおけ」

 そう言うと、ルークとジャイルズ伯爵は執務室の方へと行ってしまった。

「……褒められた……のかな?」

 アメリは衣装部屋に戻り、ジャケットにブラシをかけ、ハンガーにかけておく。

「明日も議会だっけ。……今度はなににしようかなぁ」

 ひとりになったからか、体がどっと重く感じられた。あくびをかみ殺しながら、確かに疲れたかもしれないと思うアメリだった。

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