処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
 七時めがけでルークの部屋に行くと、すでにルークも戻ってきていた。
 昨日同様、濡れ髪の色気たっぷりの姿を朝から見せられてお腹いっぱいだ。
 ジャイルズ伯爵とルークの一日の予定を確認し、昨日決めておいた服に着替えてもらう。

「髪とかしますね」
「ああ」

 さらさらした髪からする石鹸の香りとか、耳にうっかり触れてしまうとか、身支度の手伝いには危険がいっぱいだ。無駄にドキドキしてしまう。
 平常心を保つために、アメリは脳内で早口言葉を繰り返した。

(あれ……?)

 化粧を施しながら、ブラシの滑りの良さに気が付く。

(肌が滑らか。……そう言えば昨日より血色もいいかも。なんかいいものでも食べたのかしら)
「昨日は」

 おもむろにルークが口を開き、アメリはぎょっとしつつも続きを待つ。

「よく眠れた」
「そ、そうですか。それならよかったです」
「お前、ベッドになにかしたのか? あんなにすぐに寝付いたのは子供の時以来だ」
「なにもしていないですよ!」
(……疑われている……?)

 心外だ。ゆっくり休めますようにと願いを込めてベッドを整えたというのに。

「まあいい。着替える」

 おもむろにガウンを脱ぎだすので、アメリは顔を押さえた。

「きゃーっ、すぐ脱がないでください」
「早く慣れろ。いちいち騒がれるのは面倒だ」

 アメリが騒いでいるうちに、ルークは自分で着替えてしまう。
 やがて、「ふっ……」と笑いがこぼれたような音が聞こえてきた。
 薄目をあけてルークを見れば、やはりこっそり笑っている。

「……なんですか」
「見てるんじゃないか。ははっ、お前は変な奴だな」
「ちらっとですよ!」

 なんだかんだとこの軽妙なやり取りも、楽しいと思わないこともなくて、アメリとしては複雑な気分だ。

(ルーク様、案外優しいし、思ったより笑うんだよね。……女嫌いなんじゃなかったっけ? 自分から近寄ってくるタイプじゃないならいいのかしら)

「さて、今日の掃除は軽くでいい。午後から執務室で作業をするから来てくれ」
「はい」

 返事をして、議場に向かうルークとジャイルズ伯爵を見送った。
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