あなたがお探しの巫女姫、実は私です。

突然のご指名です

 リネン室は城の一階の裏口近くにあり、隣のアイロン部屋が常に蒸気が上がっているので、湿気を吸い込まないようにと、外の風を拭きこんで、一方通行に風が通る仕組みになっている。
 大きな棚があり、シーツやタオル、使用人たちの制服など、ありとあらゆる布製の備品がしまわれていた。

 アメリがタオルを棚に戻していると、メイド長が部屋に入って来た。

「ああ、アメリ、ちょうどいいところに。今、時間はあるかしら。ルーク様のお部屋のシーツ交換に行くの。手伝ってくれない?」
「シーツ交換ですか?」
「ええ。ちょっとひと悶着あってね。ルーク様のベッドのマットレスがびしょぬれになってしまって、ようやく新しいマットレスの準備ができたところなの」

 王侯貴族が使用するマットレスには、鳥の羽や動物の毛が詰められている貴重なものだ。急遽用意するのは大変だったろう。

「ひと悶着……?」
「最近、ジャイルズ伯爵が、ルーク様に女性をけしかけている話は知っている?」
「なんですか? それ」

 二十五歳になる大公閣下ルークは、今だ独身だ。まったく縁談が無いわけではなく、ボーフォートの古参貴族は都度都度自分の娘を売り込んでいるようなのだが、彼はすべて断っているらしい。
 今ではルーク様は女嫌いというのが、皆の共通認識だ。
 当然、ルークの側近であるジャイルズ伯爵が知らないはずはないのだが。

「あまりにも女っ気が無いからって、メイドにもルーク様を癒してやってほしいとか言っているらしいわ」
「そうなんですか?」

 なんだかいやらしい話だ。アメリの中でジャイルズ伯爵の株が下がっていく。

「でも、ルーク様にその気がないでしょ。むしろ警戒しちゃって、イザベルが水をお渡ししようと近づいたら、反射的に突き飛ばされてしまったんですって。水はベッドにこぼれて、私たちはベッドの交換に大忙しよ」
「あらら」

 イザベルは二十七歳の未亡人で、一度は結婚で仕事を辞めたものの、二年前に復帰したベテランだ。今はルークの部屋付きメイドをしている。
本来は、ルークほどの貴人ならば、身の回りの世話をする従者や侍女がついているものだ。彼らの手伝いとして部屋を整え、必要なものを手配するのが部屋付きメイドの仕事なので、直接かかわることはほとんどない。
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