あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
 ひと通り終わった頃に、廊下の方が騒がしくなる。

「いたのか」

 入って来たのはルークだ。その後ろからジャイルズ伯爵も入ってくる。

「ルーク様。お疲れ様です」
「おっ、アメリご苦労さん」

 残る補佐官たちもやって来て、執務室はにわかににぎやかになった。
 こうなると、掃除などしている場合ではない。

「ええと、私はなにをしたらいいでしょうか」

 おずおずと聞くと、ルークが軽く眉を寄せる。

「お前は俺の雑用係だ。用があれば声をかけるから、その辺に座っているといい」

 ルークが指さしたのは、先ほどまでカールが座っていた窓際の椅子だ。

「いえ、さすがに座るのは。では御用ができるまでそちらの書棚のあたりで待たせていただきますので……」

 清掃道具を片付けてから、こそこそと本棚の前に立つ。
 ルークはたくさんの書類に囲まれていた。ジャイルズ伯爵を中心として、補佐官たちが書類を仕分けたり、ルークの問いかけに意見を返したりしている。

(なんの話をしているのか全くわからないわ。うう……、早く帰りたい)

 いたたまれない気持ちでいると、ルークがまたも不満げにこちらを向く。

「立っていられると気になる。座っていろ」
「いやでも、仕事中ですし」
「気が引けるというなら、お茶の準備でもしてくれ」
「は、はいっ」

 ようやく執務室を抜け出す理由をもらえてほっとする。
 アメリは深々と頭を下げると、足早に執務室から飛び出した。
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