あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
 厨房でお茶道具とちょっとした甘いものを頼んでいると、マーサが入って来た。

「あら、アメリ」
「メイド長! わーん、会いたかったです」
「どうしたのよ。ルーク様の雑用係はそんなに大変なの?」

 抱き着くと、マーサは昔のようによしよしと頭を撫でてくれる。

「なんかむしろ、隙間なく仕事があった方が気楽なんですけど、用ができるまで待っていろって言われることの方が多くて」
「あら、あなたも要領が悪いわね。公然と休めるんだから、ゆっくりしていればいいのに」
「周囲は難しい仕事しているんですよ。落ち着かないですー!」

 アメリは半泣きだ。今のままだと役立たずな気がして落ち着かない。自分のペースでできるランドリーメイドに戻りたい。

「まったく。だったらこう考えればいいわ。あなたの仕事は、ルーク様が仕事のしやすい環境を整えることよ」
「環境を?」
「ええ。仕事がしやすいっていのは、要はそこでリラックスできているかってことよ。集中が途切れたときにお茶を出したり、時に話し相手になって、あの眉間の皺を取れるよう努力したり。ただのメイドじゃなくて雑用係なのだから、そのあたりにも気を配らないとね。空いた時間はそれを考えるために与えられたと思っていなさい」

 マーサが、ぱちりとウィンクする。

「なるほど」

 そう言えば、マーサはかつてアメリの母の世話係をしていたのだ。そしてマーサがいるとアメリはとても楽しかった。それも、マーサがいつだって、母とアメリが明るい気持ちになれるよう、気を使ってくれていたからだ。

(そうか。私もそういう風にお世話をすればいいのか……)

 ストンと腑に落ちた感覚がした。雑用係なんていったいなにをすればいいのかとずっと思っていたけれど、答えが見つかった気がする。

「なるほど、……やってみます」
「じゃあ手始めに、とっておきのお茶の入れ方を教えてあげましょうか」
「お願いします!」
「大事なのはね、蒸らし時間なのよ」

 即席だが、メイド長からレクチャーを受け、アメリは意気揚々とティーセットの乗ったワゴンを引いて執務室へと戻る。
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