あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
 しかしその上昇した気分を打ち破るようにとがった声が響いて来た。

「早く入れてちょうだい!」

 執務室の前にいる護衛が、ひとりの女性に絡まれている。

「ですから、ルーク様に面会をお願いしたいのです」
「申し訳ありませんが、閣下は執務中ですから」

 護衛は、貴族の令嬢を力ずくで排除するわけにもいかず、困っているようだ。

(これは……いったん隠れた方がいいかも?)

 そう思って踵を返そうとした瞬間、女性はアメリに気が付いた。

「お茶係が来たじゃない。今から休憩なさるんじゃないの?」

 指を突き付けられて、アメリはぎょっとする。
 近づいて来られて、アメリは彼女が何者なのかわかった。古参貴族であるテンパートン侯爵のご令嬢フェリシアだ。

「ね、あなた。このお部屋に運んできたんでしょう? ルーク様にお茶を入れるのよね? 私が入れて差し上げます。さあお貸しになって?」
「え。でも」
「大丈夫よ。お茶の心得はちゃんとあるの。……失礼いたしますわ!」
「あ、あの」

 ルークが令嬢に絡まれて困っているというのはこういうことか。確かに、人の話を聞くでもなくすごいペースで話を持っていかれて、口を挟む隙がない。

「お待ちください、ご令嬢」

 彼女はアメリからワゴンを奪うと、護衛の制止を振り切って、部屋の中に入ってしまう。
 アメリは護衛と顔を見合わせつつ、「どうしましょう……」と途方に暮れる。
 しかし、ふっと頭によぎったのは、「令嬢たちを追い出すのも仕事だ」と言われたことだ。
 先ほどマーサにも言われたばかりだ。ルークが過ごしやすい環境を作るのが仕事だと。

(私、ここで引き下がっていちゃいけないんじゃない?)

 アメリは勇気を奮い立たせて中に入った。
 しかし時すでに遅し、そこは、すでに修羅場になっていた。

< 53 / 161 >

この作品をシェア

pagetop