あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
「帰れ。俺はメイドに茶を頼んだのであって、君にではない」
「ルーク様、私はお話をしに来たのです。父からも話が合ったでしょう。この国の王となったあなたには、国の内情を知る妻が必要だと」
「この三年、俺は妻がいなくとも政務を行ってきた。それに文句があるとでもいうのか? アメリ!」
「はいっ」

 ルークが視界の端にアメリを捕らえ、名を呼ぶ。

「茶を。お前に頼んだんだ」
「はいっ。失礼いたします。テンパートン侯爵令嬢様」

 アメリは彼女から再びワゴンを奪い取ると、給仕用にしつらえられているスペースへと運ぶ。その間、フェリシアからのじっとりした視線は感じるが、気にしたら負けだ。アメリはできるだけ毅然としていた。
 効き目が無いと思ったのか、フェリシアは鼻を鳴らすと、ルークに向き直る。

「失礼ですが、ルーク様。三年前とは状況が違いますわ」
「どのように?」
「あの時は国政の立て直しに必死でしたもの。妻を娶る余裕がないというのも理解できます。でも、これからはこの国を発展させていかねばならないはずです。そのためには、あなた様と古参貴族が手を取り合うことが必要でしょう? 古参貴族の中でも有力な我が家の後ろ盾を得ることこそ、あなたがなさねばならないことでは?」

 フェリシアがきっぱりと宣言する。良くも悪くも、自分のセールスポイントはわかっているようだ。
 ルークは全く興味が無いというように、ため息をつき、細目でフェリシアを睨んだ。

「必要ない。俺はこの国をもう一度鉱業の国としてよみがえらせるつもりだ。そのために必要なことは、正確な調査と採掘方法を見直しであり、貴族の後ろ盾ではない」
「あら、そうでしょうか。鉱業と言っても、もうフローライトは望めないと思いますわ。他ならぬルーク様が、王家の血筋を断絶させたんですもの」
「王族の断絶とフローライトの採掘に関係などない」

 ルークが言い切れば、馬鹿にしたように鼻を鳴らしてフェリシアが畳みかける。
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