あなたがお探しの巫女姫、実は私です。

 執務室に、紅茶の香りが漂う。メイド長直伝の入れ方で入れた紅茶は、皆からの評判も良かった。

「頭がすっきりしてきたな」
「そうですね。これはおいしい紅茶だ」

 しみじみとつぶやき、一杯目を飲み終えた頃、「状況を整理しよう」と、ルークがジャイルズ伯爵に向かって話し出した。

「ボーフォート公国の鉱業が不調に陥ったのは、十年前。フローライトが変色するようになったからだ。これが公国没落の始まりともいえるだろう」
「そうですね。でもこちらの資料によると、採掘量が頂点に達したのは二十年前のことで、そこから採れなくなる十年の間は、下降気味だったようですよ」

 ロバートが示したのは、フローライトの過去五十年の採掘量を示したグラフだ。ずっと上昇を続けていたグラフが、二十年前を境に下降し始め、十年前のタイミングで急降下している。

「二十年前は巫女姫の失踪。じゃあ、十年前には、なにがあったんだ?」

 それは誰にもわからない。ジャイルズ伯爵だけでなく、補佐官たちも口を挟めず黙っていた。

「ちなみに、金の方はどうなんだ?」
「こちらの資料が、金の採掘量のグラフですね。五十年前から少量で横ばいですね。しかし、十年前は一時的に増えております」

 フローライト採掘が見込めなくなり、新たな財源をと考えて山を切り開いたことによる成果だろう。

「あくまでも一時的だろ? 金鉱石自体は昔から採れないわけではないがごく少量だ。どちらにせよ、フローライトほどは稼げない。フローライトを失ったことにより、鉄鋼石の輸出も減っている」

 鉄鉱石は他国でも多く採れる。フローライトが融剤として必要だから輸入しているのであって、同時に注文が来ていた鉄鉱石はほぼついでだ。鉄鋼石だけなら、輸送費のかかるボーフォート公国に頼らなくとも、近隣国から買った方が安上がりだ。

「ですよねぇ」

 大きな体を揺らしながら、ロバートがうんうん頷く

「そもそも、採掘したフローライトが変色するなどおかしな話だろう。他の鉱石でそんな変化は聞いたこともない。どうしてその現象が起きているのか、しっかり調査するべきだと俺は思う」

 ルークは腕を組んだまま、はっきりと言う。

(解決の鍵は精霊石を見つけることらしいですけどね……)

 言えないけれど、心の中で断言する。
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