あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
「しかし、その怪現象の原因は、なにを調べても出てこなかったじゃないですか」
「だからもう一度調べ直そうと言っているんだ」

 ルークの横顔に、やや疲労の跡が見える。

(眉間の皺がとれるように……と)

 マーサの教えに従い、アメリは静かに二杯目のお茶を入れた。

「ルーク様、おかわりをどうぞ」
「ああ、気が利くな」
「ジャイルズ伯爵様も」
「ありがとう、アメリ」

 ふたりがゆっくりとカップを傾ける。
 部屋の中の尖った空気が、少し柔らかくなった気がして、アメリも微笑んだ。
 ルークは、飲み終えると、再び表情を引き締めた。

「……なあ、巫女姫についての文献を見せてくれ」
「こちらですね」

 補佐官から本を受け取り、ルークがぺらぺらと読みながらめくっていく。

「巫女姫とは、精霊と交流できる貴重な人間だ。この国では王族の女性にのみ現れると言われている。……カール、合っているよな?」

 ルークは本棚の近くに立っている初老の補佐官に呼びかける。

「ええ。そうですね。巫女姫となられたお方は、生涯独身を貫き、精霊に尽くしたそうです」
「なぜ独身なんだ? 世襲ではないにしても、血縁を多く残した方がいいと思うが」
「精霊がやきもちを焼くそうですよ。機嫌を損ねないよう、巫女姫は純潔を貫くのだとか」

 それを聞くと、ルークの眉間の皺が深くなった。

「なんだそれは。まるで人身御供じゃないか」
「しかし、わが国ではそのように伝わっております」
「巫女姫がいない時代はあるのか?」
「ありますね。でも、そう間を開けずに現れるように思います。……まあ、今後は見込めませんが」

 結局話はそこに戻ってくる。
 鉱業の復活に一番早いのは巫女姫の誕生であるが、その可能性はルーク自身がつぶしてしまった。
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