あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
「そうだ、アメリ」

 ジャイルズ伯爵が、思い出したようにアメリを手招きした。

「なんでしょう」
「昨日のパペット、今も持っているか?」
「ええ。これですが」

 パペットはポケットに入っている。今はフローもいないので、安心して取り出して見せる。

「これをやろう」

 ジャイルズ伯爵が取り出したのは、シルク製の光沢のある青色のリボンだ。

「妻がな。君の大事なパペットにケチをつけてしまったと相談したら、これを渡すようにと言ってくれたんだ。パペットにつけてやるといい」
「いいんですか?」

 アメリが戸惑っていると、ルークがパペットに視線を向ける。

「せっかくもらったんだ。つけてみればどうだ」

(なんか、……ルーク様に言われると意外だな)

 アメリはパペットの首にリボンを結ぶ。幅が大きかったため、リボンは半分に折った。

「少し大きかったな」
「かわいいです」

 昔はフローライトのブローチがついていた胸のあたりが、華やかになった。飾りがあるだけでなんだか懐かしくなってしまう。

「うれしい……。ありがとうございます、ジャイルズ伯爵様。素敵な奥様ですね」
「そうだろう、そうだろう」

 妻を褒められて、ジャイルズ伯爵は心底嬉しそうだ。

「彼女はまるで天使のようなんだ。いつも笑顔で可愛くて。俺の失敗もこうしていつも彼女の機転に助けられ……」
「ロバート、その話は長くなるのか?」

 あきれたように、ルークが問いかける。

「もちろん! いかに妻という存在が素晴らしいかを、とくと閣下に理解していただかなければ」
「やめろ。もう聞き飽きた」

 どうやら、ジャイルズ伯爵は相当の愛妻家らしい。
 それはそれで微笑ましい話だ。アメリはパペットに手を入れてジャイルズ伯爵の前で動かす。

「リボンをどうもありがとうございました。素敵な奥様に、お礼を伝えてください」

 ぺこり、とパペットの頭を下げると、ジャイルズ伯爵は満面の笑みを見せた。

「ああ、伝えよう」
「うまいもんだな」
「なにがですか?」
「パペット使いが」

 パペットの動かし方にうまいも下手もないような気がするが、まあ褒め言葉だ。受け取って置こう。

「ありがとうございます」

 パペットをルークに向けてもう一度お辞儀をする。
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