あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
しかしルークは、最近従者を辞めさせたばかりだ。それで、本来メイドがしなくてもいいことまでさせられているのだろう。アメリは気の毒に思った。

「イザベルのことなら自業自得だから気にすることはないわ」

 メイド長が、アメリの考えを読んだように続ける。

「どうしてですか?」
「ジャイルズ伯爵に言われたとはいえ、ルーク様の背後から忍び寄って、腕に触れたそうよ。武人相手にそんなことをしたら、やり返されるに決まっているもの」
「……そうなんですか」

 たしかに、水を渡したいなら、手の届くところに置くだけでいい。

「問題はその後よ。ルーク様が怒っちゃって、『イザベルを部屋付きから外せ』って言ってきちゃったの。おかげでメイド長である私が部屋を整えなきゃいけなくなったというわけ」

 メイド長であるマーサはこの城一番の古株で、四十三歳だ。二十五歳のルークの恋愛対象に入るはずもなく、立場的に無茶な行動はしないと踏んだのだろう。

「……その状況で、私も一緒に行って大丈夫でしょうか。一応私、年頃の女のカテゴリーに入ると思うんですけど」

 アメリは二十歳だ。銀青色のまっすぐな髪をきっちり結い上げ、化粧っ気もないので、地味な印象が強い。恋愛対象に見られることは無いとは思うが、妙齢の女性というアイデンティティまでは捨てていない。

「構わないわよ。あなたはルーク様に取り入ろうなんて考えてもいないでしょうし。ふたりでやれば早く終わるわ」

 それはその通りだ。王族とかかわるなんて御免こうむりたい。アメリは平穏に暮らしていきたいだけなのだ。

「わかりました。私が持ちます」

 掴んだシーツはやたらと手ざわりがいい。

「わ、これ、王家御用達のコンプトン社の綿シルクですか?」
「ええ。懐かしい?」
「いえいえ、まさか。もう覚えていませんよ」

 かつて、アメリもいい素材のものに囲まれて暮らしていたことがある。今となってはメイド長しか知らないアメリの秘密の過去だ。
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