あなたがお探しの巫女姫、実は私です。

(本当に面倒……!)
「なんでしょう。ご令嬢」
「あなた、執務室付きのメイドなのかしら? 少しお話を聞きたいの」
「すみません。これを置いたらすぐ戻るように言われておりますので」
「他のメイドを行かせればいいでしょう?」

 あからさまにムッとされて、アメリも困ってしまう。侯爵令嬢を軽んじるわけにはいかないけれど、ルークの命令を無視するわけにもいかない。

「申し訳ありませんが、急いでいますので」
「あっ、ちょっと」

 深々と礼をして、足早に彼女の元を去る。
 令嬢相手にこんな強気な態度を取るのは初めてなので、ドキドキしすぎて心臓が痛い。

「あら、アメリ」

 途中でメイド長にあったので、一応経緯を報告しておく。

「テンバートン侯爵令嬢ね。私の方から話をしておくわ。ルーク様はメイドのえり好みが激しくて、別の子をやると怒るからと言えば、納得はしてくれるでしょう」
「助かります」
「それにしても、案外気に入られたのね、ルーク様に」
「え?」
「戻ってくるように言われたんでしょう?」

 アメリは目をぱちくりとさせる。
 仕事を頼まれただけだ。こんなのはあたり前のことだと思っていたけれど、メイド長の表情を見ていると、違うことがわかる。

「……イザベラはいつも最低限の仕事が終われば出てけって言われていたそうよ」
「そ、そうなんですか」

 アメリは用が無くてもそこに居ろと言われたのに。なんで待遇が違うのか、不思議すぎる。

(私が認められたってこと?)

 前向きにそんな風にも考えてみる。
 しかし、お茶道具を厨房に戻し、急いで執務室に戻ろうというところで、ハタと冷静になる。

(いや、なにも特別じゃないわ。これまでが酷すぎただけで、それが普通のメイドへの扱いだわ)

 うっかり調子にのるところだった。気を付けなければ。

< 61 / 161 >

この作品をシェア

pagetop