あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
 それから一時間ほど経ち、ルークがようやく最後の書類の束を補佐官に渡す。

「よし、これでいいな?」
「お疲れ様です、閣下!」

 ルークは自分で肩を揉みながら立ち上がり、まだ本棚を見ていたアメリのそばへ来た。

「結局お前はなにをしていたんだ? 引き出しては戻して」
「タイトルを覚えようと思いまして。今後も執務室でお手伝いをするのなら、言われたものをすぐに持ってこれるようになりたくて」

 ルークは虚を突かれたような顔をして、口を開けようとしたが、先にジャイルズ伯爵がアメリの背中をたたいた。

「素晴らしいぞ、アメリ。それこそ、閣下にお仕えする者として正しい心構えだ。君は侍女に向いているんじゃないか?」
「メイド長の受け売りですよ。私たちの仕事は、主君が過ごしやすい環境を作ることだと教えてもらったんです」
「……そうか」

 ルークの口もとが少し緩んで、優しい表情になる。

「だが今日はもういい。俺も仕事は終わりだ。こっちに座ってくれ」
「こっちとは」
「ここだ」

 指し示されたのはソファで、ルークはその対面にさっさと座ってしまう。
 しかし、ソファに向かい合って座るというのは、公王とメイドの距離感ではないと思うのだが、と躊躇していると、「早く!」と急かされてしまった。

「はいっ、失礼しました」

 ルークは腕を組んだまま目をすがめて、アメリをじっと見つめた。

「さっきのパペット、もう一度見せてみろ」
「え?」

 予想外な言葉に驚きながら、アメリは恐る恐るポケットからパペットを取り出した。

「ど、どうぞ」

 ルークは検分するようにそのパペットを触り、手を突っ込んだりしている。

「ふむ、ここに指が入るようになっているのか」
「そうです。頭の所にも入ります。三本の指で動かす感じですね」

 アメリが手で動作を示して見せると、ルークは真似をするように動かし、パペットの頭がぴょこりと下げられた。
< 63 / 161 >

この作品をシェア

pagetop