あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
「これは手製だと言ったよな」
「そうです。動けなかった母が、私を楽しませるために作ってくれたそうです」
「動けなかった?」
「足が……悪くて。ずっとベッドに居ました」
「そうか」

 ルークは口もとを押さえたまま、思案に暮れた顔をしている。

「母親は、いつ亡くなったんだ?」
「ええと、十歳ですから十年前ですかね」
「……子供の頃から城で育ったと言っていなかったか?」

 言われてはっとした。そうだ。建前上はアメリの親はとっくの昔に亡くなっているのだ。

「あ……。いや、えっと、七歳? あ、違う、五歳くらいでした」

 アメリが焦って言い直すと、ルークはあきれた様子だ。

「おいおい、ずいぶん差があるぞ。どれだ」
「五歳です、五歳。城に来たのはそのくらいでした!」

(ふう……。危ない危ない)

 その頃のことを、人に聞かれることなどなかったから、うっかり本当のことを言ってしまった。
 アメリは笑ってごまかしたつもりだが、ルークの視線がなんだか痛い。アメリの会話に嘘が無いのか、検分されているみたいだ。

「だからこのパペットは、おそらくその頃に作られたものです。あ、でも、長年使っているので、一度は自分で直したんですよ。髪の毛とか、つけ直しているんです」
「ふうん。うまいもんだな」

 ルークは感心したようにフローのパペットを一通り眺めると、アメリに戻した。

「……ところで、頼みというか命令なんだが」
「はい」

 ルークが小声になり、前のめりになった。あまり人に聞かれたくないのかと、アメリも少し前かがみになる。

「今日から、特に用事がなければ夕食を俺と一緒に取るように」
「えっ、どうしてですか」
「雑用係がいないと困るからだ」

 嘘だ。今まで従僕だってメイドだって遠ざけてきたくせに。

(いったいなにを考えているの?)
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