あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
 アメリは疑心でいっぱいだが、ジャイルズ伯爵はひとり盛り上がり始めた。

「おお、それはいいことですね! 女性と食卓を囲むのは、ひとりで食べるのとは違って楽しいものですよ!」
「落ち着いてください、ジャイルズ伯爵様。私は女性というかメイドですよ」
「いいんだ。メイドでも、誰かと食事にする気になってくれただけでも俺は十分だ。うっ……」
「いや、泣かないでくださいよ」

 感動のあまり涙ぐむジャイルズ伯爵に、アメリはドン引きである。この調子では、助けてもらえそうにない。
 アメリとジャイルズ伯爵のやり取りを眺めながら、ルークはにやりと笑った。

「不満そうだな、アメリ」

(この顔、私に好意があるという感じには思えない。ルーク様はいったいなにをたくらんでいるのかしら)

 アメリは不敬にならない程度に、反発することにした。

「一緒にお食事を頂くのは、仕事とは言えません」
「では、個人的に誘ったならば頷くのか?」
「……お断りします」
「ははっ、だろうな。ではちゃんと仕事にしよう。お前に毒見役を命じる」

 これまたとんでもないことを頼んできた。

「毒見はもっと特殊なスキルがいるんじゃないんですか? 雑用係の仕事ではないですよ!」
「大丈夫だ。死ぬようなことはないさ。まあ反論しても却下だ。諦めて俺の言うことを聞くんだな」

 なんてひどい暴君だろうか。アメリはあきれ、でも撤回してくれそうにないので諦めて頷いた。

「まあ、一度下がって休んでいろ。後で部屋に人を呼びにやるから、そうしたら戻ってこい」
「はあ」

 執務室を出て、アメリは大きくため息をついた。
 ルークがなにを考えているのか、まったくわからない。
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