処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました

ルークの事情

 アメリを執務室から追い出した後、ルークは補佐官たちにも帰るように言った。
 部屋に残っているのはロバートだけだ。そして彼は、ニヤニヤともの言いたげな笑みを浮かべてルークを見ている。

「なんだ、顔がうるさいぞ」
「うるさいって……ひどい言い草ですね。これは閣下の成長を喜んでいる顔ですよ。アメリのこと、お気に召したんですね」
「そういうんじゃない。お前はすぐ恋愛を絡めようとしてくるな」

 そういうところはまるで女のようだ。でかい図体をした、筋肉馬鹿の癖に。

「だって楽しいじゃないですか。恋愛の話は」
「俺は楽しくない。お前の惚気話も飽き飽きだ」
「マルヴィナの話なら尽きることはありませんよ」

 きっかけを得たとばかりに奥方の話を始めようとするロバートを、睨んで黙らせる。
 騎士としても側近としても優秀なのに、恋愛脳なことだけが欠点だ。

「……あの娘をそばに置きたいのには理由がある」
「理由?」

 ようやく真剣な空気を察知したのか、ロバートは神妙な表情になった。

「なんですなんです、仰々しい」
「まあ座れ。お前、アメリのパペットを見てなにか感じなかったか?」
「ああ、可愛いですよね。あの年齢で人形遊びをするのは、幼い感じがしますが」
「……そうじゃない。もういい」

 しっしっと手で追い払う仕草をすれば、わかりやすくムッとする。

「なんなんですか。そうやって言葉を惜しむから、ルーク様には恋人ができないんですよ」
「できないんじゃなくていらないんだ。もう少し頭を整理したい。お前は人が来ないように見張っていてくれ」
「わかりました」

 扉の前に移動し、番をするロバートを横目に、ルークは足を組んで、アメリのことを思い返した。

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