処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
 アメリのことは、雑用係に指名する前から知っている。

 三年前、レッドメイン軍を率いて城内に押し入った時、メイドのマーサと出くわした。
 彼女は集団で現れた騎士たちに怯えることもなく、はぐれたメイドを探しているのだとルークに食って掛かって来たのだ。
 たまたま自分が先陣を切って来たからいいものの、一般兵と出くわしたのだとしたら真っ先に斬られてもおかしくない。
 ルークは感心するのと同時に不安にもなり、マーサに巻き込まれないようにどこか鍵のかかる部屋に隠れるよう伝えた。

『でも、アメリが見つからないんです。私、あの子を探さないと』

 名前を聞いたのはその時が最初だ。マーサは、アメリは自分にとっては我が子のような存在で、絶対に助けたいのだと言った。
 この状況でそこまで人のことを心配する姿勢に感銘を受けたルークは、マーサにその子は自分が見つけてやるからと約束し、兵士たちに、抵抗する者以外、特に女子供には絶対に手を上げないよう通達した。
 その後、王族を捕らえ、降伏を宣言させたのち、改めてアメリを探させたが、結局見つからなかった。

 マーサの心意気を買っていたルークは、自身が王となることが決まった時、彼女をメイド長として指名した。そして、アメリを見つけられなかったことを謝ったのだ。
 ほどなくして、マーサはアメリを自分で見つけてきた。どうやら王都の避難所まで逃げていたらしい。城でメイドとして雇用したいという相談に、二つ返事で頷いた。
 ルークはマーサのことを信用していた。だから、彼女がそこまで大切に思うアメリも信用に値する人物なのだろうと思ったのだ。

 そして先日、マーサがシーツ交換にアメリを連れて来た時、初めて彼女を近くで見た。
 最初に気になったのは、彼女のエプロンのポケットが妙に膨らんでいたことだ。清掃メイドは道具の一部をエプロンに入れていることが多いが、それを考えてもふくらみが大きい気がした。
 なにかを隠しているのなら、いっそ近くで監視すればいいか程度に思って、雑用係に召し上げたのだ。

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