あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
 ルークはぼんやりと三年前を思い出す。

 ルークはマーサと会った後、城での騒乱を長引かせるのは得策ではないと、皆に見えるように魔法剣で火柱を上げた。
 案の定、王は見たことのない炎の魔法におののき、あっさりと降伏した。
 彼は豚のように肥え、王冠にも指輪にもあきれるほど多くの宝玉がついていた。これが貧しさを理由に国を脱出する平民のいる国の王かと思えば、あきれと共に怒りも湧いてきた。
 だから、父であるレッドメイン王からの、王族を皆処刑するようにという命令には特に反対もしなかった。それが、この国を属国として治めるための処置でもあったからだ。

 王と王妃、王太子一家、そして第二王子。処刑したのは、ボーフォート王家にまつわる人間すべてだ。
 幼い王子を手にかけたときはさすがに気持ちが沈んだが、王族が残っていればいずれは反逆の芽が育つ。王子本人が望まなかったとしても、周囲の人間によって起こされるものだ。

(姫ならば、よかったのに)

 その場合は、形ばかりの妻として命を長らえさせることができた。
 なんにせよ、幼い命まで奪った自分に、幸せになる権利などない。なし崩しにボーフォート大公の位を頂いたものの、この国はレッドメイン王国の属国だ。兄の子のひとりが跡を継いでも問題はない。

(俺は、それまでにこの国を以前のような豊かな国にすればいいだけだ)

「ルーク様、そろそろ食事のお時間ですよ」

 ロバートが時計を確認し、立ち上がる。

「今日は個室に運んでくれ。それと、アメリを呼んでくるように」
「わかりましたとも。私にお任せください」

 恋愛ごとが好きな部下は、なにを勘違いしているのかウキウキと立ち上がって部屋を出て行った。
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