あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
 ふと顔を上げると、マーサが遠い目をして、ため息をついていた。

「正直、総括する立場の私が部屋付きメイドになるのは無理があるのよね。従者ともども、早く別の人を任命してくれないかしら」

 マーサの愚痴が始まった。
長くなりそうだな……と思ったアメリは、聞き流すことにした。真面目に聞いていたら疲れてしまう。

「そもそも、ルーク様がもう少しあたりが柔らかければ、従者だって逃げないのに……ねぇ、聞いてる? アメリ」
「はあ」
「だいたい二十五歳にもなって結婚していないから悪いんじゃないの」
「そうですねぇ……」

 アメリは適当に生返事をする。

(結婚。結婚ねぇ……)

 王族の結婚年齢は早い。王家存続のため、できるだけ多くの子をもうけることが求められるのだ。
前王朝の処刑された王太子も、二十歳くらいで結婚していたはずだ。王太子の子はまだ二歳の幼子で、彼までもが処刑されたのは悲しかった。

(たしかに、ルーク様の年齢なら、すでに子のひとりやふたり、いてもおかしくないんだよねぇ)
「アメリってば」
「え?」
「またぼーっとして。ルーク様には近づかないよう気を付けてね。入るわよ」

 いつの間にかルークの私室の前まで来ていた。アメリは気を引き締めて頷く。

「失礼いたします。シーツ交換に参りました」
「ああ」

 中に入ると、薄い赤の壁紙に目を奪われる。

(うわ)

 部屋は広く、大きな窓から光が差し込んでいた。向かって左側に応接室かと思うようなテーブルとソファが置いてある。右奥に天涯付きのベッドがあり、そのさらに奥には続き部屋に繋がる扉があった。床には毛足の長いじゅうたんが敷かれていて、さすが王の部屋とばかりの豪華さだ。
 ソファにはルークとジャイルズ伯爵が向かい合う形で座っていて、ルークはマーサにきづくと「ご苦労」と一度視線を向けた。
 アメリは小さく礼をして、マーサの後に続く。ルークはアメリを一瞬見ると、軽く眉を寄せ、すぐに興味なさそうにジャイルズ伯爵に向き直った。

(こわ……。女嫌いって本当なのかも)

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