あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
* * *

 執務室から出たアメリは、なんとなく重い気分で使用人控室に戻った。

「ただいま戻りました」

 まだ終業には早い時間なので、あまり人がいない。勤務表を眺めながら考え込んでいたマーサが、アメリを見て顔を上げる。

「あら、おかえりなさい。今日の仕事は終わり?」
「まだなんです。いったん休憩して、夕食の毒見をするように言われました」

 ため息交じりに言うと、マーサも不思議な顔をする。

「あら。それって雑用係の仕事かしら」
「私もそう言ったんですけどね」

 理不尽だと思っても、権力者には逆らえない。メイドなんてそんなものだ。
 アメリは周囲を見回す。結局一度もフローは戻ってきていない。再会してから、こんなに長い間離れたことがないので、どこかで力尽きていないか心配だ。

「そう言えば、マーサさん。さっきね、ルーク様たちが巫女姫を探すとか言っていたんだかけど」
「巫女姫を? 今さら?」

 あきれたようにマーサが言い、アメリに耳打ちする。

「……大丈夫よ。対外的には巫女姫様は二十年前に失踪したことになっているし、実際ローズマリー様はもうお亡くなりになられたわ。見つかるわけがない。真実を知っている人間はもう私しかいないわ」
「だよね。ちょっと心配になっただけ」
「大丈夫よ。ばれるはずがないわ」

 マーサは自分にも言い聞かせるようにつぶやく。

「ですよね。……では、一度自室に戻ります」
「ええ。少し休憩してらっしゃい」

 アメリの後ろ姿を見送ったメイド長は、ポツリともらす。

「ルーク様の料理は、毒見済みで運ばれるはずだけどねぇ」
 
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