あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
 使用人棟に向かうために、長い廊下を歩いていると、光が頭上を横断していくのが見えた。

「フロー!」

 その光は、ポケットの中のパペットに吸い込まれていく。

「無事だったのね。良かった」
《うん》 

 ポケットの中でパペットが動いている。アメリは急いで空き部屋に入り、彼を取り出した。

「体調はどう? 離れていても大丈夫だった?」
《うん。なんとか。でも精霊石は見つけられなかった。ほら、この城、壁飾りとしてフローライトが要所要所にはめられているじゃない。気配が散漫しちゃって、特定できないんだよね》
「そうなんだ」
《動き回ってすっごく疲れちゃったよ。アメリ、仕事終わった?》
「それがね。今からお食事の毒見をしに行くのよ」
《なんだ、そっか》
「フローも一緒に行く?」

 心細いからいてほしいなという気持ちがあったのだが、フローはアメリの手の中でバイバイと手を振った。

《僕はやめとくよ。先に部屋に戻っているね》
「えっ、フロー」

 パペットから再び光が遠ざかり、瞬きの間に消えてしまった。

「……行っちゃった」

 でもそれも当然で、フローはアメリに使役しているわけではない。彼はいつも、自分のやりたいように動けるのだ。
 ため息をつきつつ空き部屋から出て歩いていると、後ろからジャイルズ伯爵に呼ばれた。

「アメリ、夕食だ。呼びに来たぞ」
「あー……はは。はい。ただ今行きます」

 結局、休憩らしい休憩ができないまま、時間が過ぎてしまったようだ。
 
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