あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
「こっちだ。入ってくれ」

 ジャイルズ伯爵に案内されたのは、二階にいくつかある個室の一室だ。

「失礼します」
「来たか」

 ちょうど料理人が食事を運び込んでいるところだったようで、ルークの前のテーブルには、白いテーブルクロスがかけられ、数々の料理がふたり分並べられていた。

(……ジャイルズ伯爵の分かな?)

 ルークの脇にジャイルズ伯爵が立ったので、アメリはそのさらに隣に立ち、給仕が終わるのを待った。

「では失礼いたします」

 料理人はワゴンを部屋の端に置き、退出する。

「いつまで立っているんだ、座れ」

 ルークが指し示したのは、ルークの向かいの席だ。

「こちらはジャイルズ伯爵様の分では?」
「いや、これは毒見分だ」

 アメリの思考が一瞬停止する。
 毒見とは、料理の一部を取り分け、食べるものだと思っていた。しかし料理はしっかり一人前用意されている。これでは毒見だけで満腹だし、もっと言ってしまえば、毒見の体はなしていない気がする。

「先に食べろ」
「でも、これでは、ルーク様の皿に毒が入っていても判別できないじゃないですか」
「いいから」

 有無を言わさぬ圧を感じて、アメリは席に着いた。目の前に広がる食事の皿からは、食欲をそそる匂いがぷんぷんしている。

(さすが、お料理が使用人のまかないとは全然違うわ)

 ルークの視線の圧を感じながら、「では、お先に失礼いたします」と告げ、恐る恐るフォークとナイフを差し入れる。
 あまりにもルークがじっと見ているので、いたたまれない気分だ。

(切り方、変じゃないかな。私、あんまり作法とか上手じゃないんだよね)

 母と地下室に住んでいた頃は、閉じ込められていたとはいえ、待遇は悪くはなかった。着るものも食べるものも、素材のいいものがちゃんと運ばれてきたのだ。
 母は王族としての教育を受けてきたからか、美しい所作で食べていたけれど、見ていただけのアメリは心もとない。

(うわっ、肉が柔すぎてナイフが滑った!)

 不快な金属音が響き、アメリは焦る。
< 72 / 161 >

この作品をシェア

pagetop