あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
「す、すみません」
「いい、気にするな」

 そう言いつつ、ルークは凝視ともいえるレベルでアメリの手もとを見てくる。

(無理、無理―!)

 それでも毒見をしろと言われて食べないわけにはいかない。

(ええい)

 なんとか切り分けて口に入れると、お肉がスーッと解けていく。固形物なのにおかしい。

(え? なんで?)

 しばらくアメリが無言でいるため、ジャイルズ伯爵が心配そうに声をかけてきた。

「どうしたアメリ、なにかおかしいのか?」
「え、いや、あの、肉が溶けてしまいました」

 しばし、沈黙がおとずれた……かと思うと、いきなりルークが腹を押さえて笑い始めた。

「ははっ、あはは」
「る、ルーク様」
「いや、悪い。ちょっとツボにはまっただけだ」
「脂分が多い肉なんだろう。それは毒ということではないと思うぞ」

 ジャイルズ伯爵も説明してくれる。

「そ、そうですか……」

 少し恥ずかしい気持ちで、次の皿に手を付ける。スープも野菜のだしがしっかり出ていておいしいし、パンも温かくやわらかだ。

(やばいわ。王族の食べ物おいしすぎる)

 すべての料理をひと口ずつ味見しただけでも、満足感がすごい。
 一通り食べ終えて、アメリはハッとして顔を上げる。

「だ、大丈夫だと思います。元気です」
「そうだな。元気そうでなによりだ」

 今だ笑いが収まらないルークが、滲んだ涙を拭いている。泣くほど笑われるなんて屈辱だ。

「……ルーク様、意外と笑い上戸なんですね」
「お前がおもしろすぎるからだろう。さ、俺も食べるから、お前もそれを平らげてしまえ」
「えっ、いいんですか?」
「雑用係だろ。食事の相手もお前の仕事だ」

 いまいちなにをすればいいのか要領の得ない役職だが、こんな役得もあるらしい。

(まあいいか。恐縮してても始まらないし。私が手を付けてしまった食事、他の人が食べるわけにもいかないんだろうし)
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