あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
「では、いただきます」

ただ、時々ナイフと皿がこすれ合って耳障りな音を立ててしまうのが気になる。

「すみません。下手で……」
「俺の前ではべつに構わないが、まあ直した方がいいだろうな。お前は力を入れすぎなんだ。もう少し肩の力を抜け。俺の手もとを見てみろ」

 ルークの前が一番駄目だろうと思うが、話はすでに流れて行ったので、蒸し返すのはやめ、素直にルークの手もとを見つめる。

「はい」
「今のお前はこう」

 肩のあたりに力が入ったのがわかる。ナイフとフォークが皿に対して斜めに入り、食器とぶつかって不快な音を立てた。

「肩の力を抜いて、ナイフをまっすぐ入れて見ろ。あと、ギコギコしない。のこぎりじゃないんだ。一度で切れるように、開始位置を考えろ」

 実践して見せるルークの姿は、どこか母親の姿を思い出させた。

(母様も、教えてはくれたんだよね。マナー)

 しかし、小さなアメリには正直ちんぷんかんぷんだった。

(でも今はわかるな。私が大人になったからか……)

 ルークと母は体つきも性別もなにもかも違うけれど、育ちの良さというか、品の良さが似ている。不思議と、素直に教えを請おうという気持ちになっていた。

「こうですか?」
「そうだ。力は入れなくともナイフは引けば切れる」
「……こうですね! 本当に一度で切れました!」
「そうだ。覚えは早いようだな」

 食事の席は、いつの間にか、ルークによるマナー講座になってしまった。
 その後も、スープを飲む際の口の動きなどを指導され、食事におけるマナーは一通り頭には入ったが、詰め込みすぎでパンクしそうだ。
 ルークは普段は無口な方なのに、指導となると意外と熱血で、今までで一番話したかもしれないくらいだ。
 気が付けば満腹。普段食べられないような高級料理に満足だ。


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