あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
 雑用係としての日々は流れるように過ぎ、一週間が経った。
 仕事の流れもつかめて来て、だいぶ自分のペースで動けるようになってきた。
 朝は着替えの手伝い。午前はシーツ交換や、衣類の手入れ、部屋の清掃活動だ。午後はルークがたいてい執務室にいるので、お茶を出し、資料の片づけなどを手伝う。
 しかし解せないのは、毎日夕食につき合わされることだ。若干ウエストに危険を感じている。

(おいしいけど、太る……っ)

 一応毒見役だという建前はあれど、普通にアメリの分として一人前が用意されていることを、使用人たちはわかっている。
 やがて、『ルーク様はアメリを気に入っているみたい』などと噂が立つようになってきた。

「苦情を言いましょうか?」

 話を聞いたメイド長は毅然と言ってくれた。

「まあでも、料理はおいしくて、ついでにマナーなんかも教えてくれるので、楽しいは楽しいんです」

 こんなことを言ったら、ルークには怒られるかもしれないが、彼といると母と過ごしていたときのことを思い出すのだ。

「それならいいけど。……困ったらすぐに言うのよ」
「はい」

 話は収めたものの、いつまでもルークの食事の相手がアメリではいけない気がする。
 ルークが親しくなるべきはメイドではない。いずれは結婚相手になるような身分の高い令嬢と親密になるべきなのだ。
 そう考えると少し寂しいような気もして、だんだん環境にならされている自分が怖くなる。

(いや、寂しくなんてないわよ)

 ルークに対して、愛着を感じてはならない。
 それだけは心に決めているのに、いつの間にか明日が楽しみになってウキウキしている自分に気づいて焦るの繰り返した。

「あら、ジャイルズ伯爵様」

 メイド長の声に、アメリはハッと顔を上げる。

「アメリ、今手が空いているか?」

 彼は大きな体を小さく曲げて、手招きしている。

「あ、もう昼休憩も終わりですね。ルーク様がお呼びですか?」
「いいや。でも、少し話さないか?」
「……はい?」

 誘われて、アメリはジャイルズ伯爵と共に裏庭へと向かった。

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