あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
 日光が降り注ぎ、新緑がまぶしい。
 アメリとジャイルズ伯爵は、裏庭を歩いていた。

「えっと。十三時の鐘も鳴りましたが、ルーク様の元に戻らなくてもいいんですか?」
「少し君と話しておきたいと思ってな。まずは礼を言おう。君のおかげで、最近ルーク様はよく笑うようになった」
「仕事ですから、お礼を言われるようなことではありません」

 むしろ給金以外にも食事などの恩恵を受けているのだから、礼を言うのはこちらの方だろう。

「ルーク様が誰かと食事を取りたがったのは、アメリが初めてなんだ」

 ぽつり、とジャイルズ伯爵が言う。

「そんなまさか」
「本当だ。本国でも成人王族は忙しくてな、ルーク様はご家族と時間が合わず、ひとりで取ることの方が多かった」

 それは想像すると、とても寂しいことのような気がする。

「あ、言っておくがべつに同情を誘っているわけじゃないぞ。ルーク様はむしろ清々するとまで言っていたくらいだ」
「どうしてですか! ……ご家族の仲は悪いんですか?」
「仲が悪いわけではないのだが、居心地は悪そうだったな」

 ジャイルズ伯爵は、肩をすくめるとゆっくり歩き出す。

「アメリは、レッドメイン王国のことはどれくらい知っている?」
「大陸有数の大国ですよね。王族による結界魔法で国が覆われていて、外敵の侵入を許さないと聞いたことがあります」

 前王の時代、平民たちの中で国外逃亡がささやかれ始めた頃、王が声高に言っていた。レッドメイン王国に行っても、誰も救ってなどくれないし、敵と判断されれば入れないかもしれないと。
 でも結果として、難民として逃げた民は受け入れられ、ルークによって救われたのだ。

「王族は魔力を持って生まれてくるんだ。だから、出生順に限らず、魔力が強い者が後継者となることが定められている」

 そこまでは知らなかった。
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