あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
「……今は制御できているんですか?」
「ああ。当時のルーク様の婚約者が、『剣を媒介に魔法を使えばいいのでは』と進言してくれてな。それがうまくいった」
「ちょ、ちょっと待ってください。ルーク様に婚約者がいたのですか?」

 考えてみれば当たり前の話だ。三番目とはいえ一国の王子。早々に結婚だって望まれる立場だろう。なのに、アメリの胸がずきりと痛んだ。

「ああ。でも婚約破棄したんだ」
「なぜ!」
「それはその……」
「彼女が好きだったのはロバートだからだ。まったく、戻ってこないと思えば、ふたりでこんなところで内緒話か」

 背中に、冷たい声が響いて、アメリから血の気が引く。

「ル、ルーク様」
「ロバート。お前はどうしてそう口が軽いんだ」
「いやいや、私は居心地のいい環境を作ってくれたアメリに礼を言おうと思ってですね」
「それがこいつの仕事だ。礼を言うことではない」

 先ほどアメリが思ったのと同じことを、ルークが言ったので、なんだかおかしくなってしまう。

「どういうことですか? もしかして、ジャイルズ伯爵の最愛の奥様は、ルーク様の元婚約者だったのですか?」
「そうだ。呑み込みが早いな」

 ルークはあっさりと肯定すると、アメリの隣に立って共に歩き始めた。

「こいつの奥方──マルヴィナは、学生時代の同級生なんだ。父親は侯爵で、身分と年齢の取り合わせで、幼少期から俺の婚約者に決められていた。王族の結婚なんてそうやって決められるものだろう」

 それはアメリもわかっている。が、そこから起きる修羅場を想像すると、不敬ながらワクワクしてきた。メイド間で話される恋の話よりもずっと楽しい。

「だがマルヴィナも俺も、恋愛感情までは持っていなかった。そんな時、ロバートが俺の側近に決まって、マルヴィナとも顔を合わせることが多くなったんだ。あいつは最初からロバートに惚れていたんだよ。だから助けてほしいと懇願してきたんだ」
「で、どうなったんですか?」
「俺が婚約破棄を申し出て、傷心のマルヴィナをロバートが慰めたという形にして体裁を保った」
「うそ。ルーク様、すっごいいい人じゃないですか」

 アメリが言うと、ジャイルズ伯爵もうんうん頷く。
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