あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
「アメリ、そっちを持ってくれる?」
「あ、はい」

 マーサの指示に従いながら、ふたりがかりでシーツを整えていく。
 作業をしながら耳に入るのは、ルークとジャイルズ伯爵の言い合いだ。

「とにかく、女をけしかけるのは金輪際やめろ。いい加減、迷惑だ」
「そんなことを言わないで、少しは遊んでいるところを周囲に見せてくださいよ……! あなたがそんな態度だから、私まで男色なのではないかと疑われるのですよ! いいですか、私には愛する妻がいるんです。あらぬ疑いをかけられたことで何度不利益をこうむったことか……!」

 ジャイルズは、真剣な顔をして詰め寄っている。

(え? そういう理由なの?)

 思ったよりどうしようもない理由だった。
 ルークもそう思っているのか、鼻で笑って一蹴する。

「そんなの俺のせいじゃないだろう。そもそも、女が苦手なのは本当のことだ。結婚する気もない。いずれは兄上の子の誰かを養子にもらえば、世継ぎに関しても問題ないだろう」

 あっさりと断じるルークに、「いやいやいや」とジャイルズ伯爵が反論する。

「属国とはいえ、本国との間には深い森が広がっていて、簡単に行き来できるものではありません。幼い王子を親元から離す気ですか! 王太子様だって反対するに決まっています。……いいですか? この国には、この国にふさわしい後継者、つまりあなたのお子が必要なのです」
「なにを面倒なことを、だったらお前の所の子でいい。夫婦仲がいいのだろう? 男児を多く生み、俺にひとりくれればいいじゃないか」
「なんで私のかわいい子を殿……閣下に差し出さなきゃならんのですか!」
「一国の王になれるんだぞ?」
「人の心のないルーク様を親にするなんて、そんな可哀想なこと、私にはできません」

 黙々と作業をしながらも、アメリは笑いを堪えるのに必死だ。
 ルークもジャイルズ伯爵も遠くから見ている分にはクールな印象だったが、ふたりの会話がこんなに面白いなんて思わなかった。
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