あなたがお探しの巫女姫、実は私です。

謎の商人

「それではこれにて、本日の議会を閉会します」

 議長のあいさつで、貴族議員たちは各々立ち上がり、派閥ごとに退出していった。
 この一週間は、国家予算の割り振りを決める大事な議会だ。申請された予算が本当に必要なものなのかの精査もしなくてはならない。

「肩がこるな……。たまには騎士団の訓練にでも顔を出そうか」
「今週の議会が終わるまでは我慢してくださいよ。午後から今日持ち上がった予算案の精査をしなくてはなりませんし」
「わかったよ」

 ロバートにも言われてしまい、ルークは肩をすくめる。仕方なく諦めて執務室に向かおうとすると、テンバートン侯爵に呼び止められた。

「ルーク閣下。お時間はございますかな」

 テンバートン侯爵は、古参貴族の中心のような人物だ。王の代替わりの際に所有地の半分を国庫返納し、しばらくはおとなしくしていたが、今年に入って、娘が十八歳と年頃になったことから、やたらに声をかけてくる。
 面長で白髪交じりの男だが、ここのところ皺が増えたようにも思える。

「なんだ? テンバートン侯爵。手短に頼む」
「先日は娘が執務室にお邪魔したようで、誠に申し訳ございません」
「わかっているなら、執務中に押しかけてくるようなことは慎むよう伝えてくれ」
「もちろんでございます。ところで、その際に少し娘が漏らしてしまった鉱山のお話なのですが……」

 ルークは周囲を見回した。議場からはほとんどの議員が出て行ってしまい、今はルークとロバート、そしてテンバートン侯爵だけだ。
 ならばここで話してもいいかと、ルークは先を促すことにした。

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