あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
王城の敷地内には、執務を行い王が居住する城のほか、見張り塔、使用人たちの住む使用人棟、騎士団詰め所、鍛錬所など様々な施設がある。随所に衛兵がいるが、基本、貴族階級の出入りは自由だ。特に庭園は、多くの人に見てもらうため、一般開放されているときもある。
ルークとロバート、テンバートン侯爵が揃って庭園を訪れると、衛兵に軽い緊張が走る。要人が訪れたときは警護にも気合がいるのだろう。
「ここで待たせているのです。ほら、あの男ですよ。……カーヴェル卿!」
「……終わりましたか? テンバートン侯爵」
振り向いた男は、一瞬目を奪われるような風貌の持ち主だった。緩くウエーブのかかった金の髪と、褐色の肌。吊り上がった細目が印象深い。
「カーヴェル卿、こちら、ルーク閣下と側近のジャイルズ伯爵だ」
「ルーク閣下? これはこれは! お目にかかれるなんて、光栄です。私は、エルトン・カーヴェルと申します」
笑顔になると、ただでさえ細い目が糸のようになる。
「お初にお目にかかる。カーヴェル卿。優秀な商人であるだけでなく、鉱脈を読むのがうまいそうだな」
ルークは手を伸ばし、握手をした。宣伝のつもりなのか、大きな黒の宝石のついた指輪をつけている。
(黒の指輪とは珍しいな)
「金鉱山のことですか? ええ。この国に来てから、不思議とわかるようになりました。なんか呼ばれる感じがするのですよ」
「呼ばれる?」
「なんでしょうね。私も初めての感覚なので、うまく説明できないのですが」
ルークとロバートは視線を交わす。
「……貴殿は、どこから来たんだ? 失礼だがその肌色は近隣国のものでもないだろう」
「私は南のエクステクト王国出身です。海を渡って、コルテッド王国に着き、森を越えてボーフォート国に入りました。声に導かれて鉱山を訪れたところ、テンバートン侯爵に拾っていただいた次第で」
「エクステクト王国か……」
この大陸より南にある小さな島国だ。レッドメイン王国からも船は出ているが、さらに東にあるコルテッド王国を経由してきたらしい。
あまり詳しくは知らないが、南東諸国人の肌の色は褐色に近いというのは聞いたことがある。
(……別段、話におかしなところがあるわけじゃないな)
しかし、ルークはなんとなく居心地の悪さを感じていた。この男の纏う空気がすごく不快だ。