あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
「ところで閣下は金細工にご興味はございませんか? わたくし、このような細工物を作って販売しているのです」

 カーヴェル卿はぱっと笑顔になると、自身のジャケットの胸につけているブローチを外して見せた。大きな金細工で、馬が前足を上げ雄たけびを上げている姿が彫られている。

「純度が高く、上質な金です。テンバートン侯爵領の鉱山から見つけたものを加工しました」
「ほう、見事なものだな。細工も君が?」
「いえ、細工師に任せております。私は商人ですから、販売と交渉が主ですね」
「そうか。覚えておく」

 金細工の話は是とも否ともつかずに流して、しばらくは雑談を続けた。

「国としても、鉱業の復活は喫緊の課題と考えている。鉱山が多く開ければ、平民たちの仕事もまた増えるということだからな。期待している」
「ありがたきお言葉です」

 うやうやしく礼をして、カーヴェルは微笑んだ。

「ではテンバートン侯爵。今日はよい出会いをありがとう」
「とんでもありません! 今度カーヴェル卿を皆に紹介する夜会を開く予定なのです。ぜひ閣下もご出席くださいませ」
「ああ」
「娘も喜びます!」
「……じゃあ、これで失礼する」

 ふたりを庭園に残し、ルークとロバートは早足で城内に戻る。

「テンバートン侯爵は、まだフェリシア嬢のことは諦めていなさそうですな」
「それは困るな。……なあそれより、お前はどう思った? あの商人」

 ルークはやや小声で問いかける。

「二十歳なら、巫女姫……ローズマリー姫が産み落とした子ということも考えられますね」
「だよな。失踪の理由としても納得できる。純潔でいなければならなかった巫女姫が、妊娠を隠すために失踪。そして、内密に子を産んだ……」
「ええ。筋が通ります」

 しかし、なにか引っかかるものもあった。本当に巫女姫の子供だったとして、なぜ〝金〟なのか。この国は、フローライトの精霊の加護を得ていたのではなかったのか。

(採れるのがフローライトなら、腑に落ちるのだが)
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