あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
「光明が差してきましたね!」

 のんきに笑顔を向けるロバートに、今それを追求する気にもならなかった。

「声が聞えるということは、精霊のものなのだろうしな」
「人当たりがいい感じでしたよね」
「……そうか?」

 単純なロバートには、気にならなかったのだろうか。
 どこか探るような瞳、隙無く人の物欲を刺激してくるところなどは、案外抜け目がないようにルークには思えたが。

「でも男性が巫女姫になることなどあるのでしょうかね」
「まあ、精霊の声が聞えるかどうかが基準ならば、男でも女でもいいのだろうが、〝巫女姫〟という呼び方が定着しているのは、これまでは女性ばかりだったということだろうな」
「カーヴェル卿が本当に巫女姫なら、呼び名を変えねばなりませんな!」

 ロバートはあまりににこやかで、なんの疑問も持っていなさそうだ。

(なんだろうな。このもやつきは)

 巫女姫に関して、ルークはルークなりにイメージを持っていた。
 精霊に好かれるということは、自然を愛する心が強いのだろうし、魔力的なものも強いだろう。そばにいるだけで周囲を明るくしてくれるような人物ではないかと思っていたのだ。

(そう。俺的にはアメリみたいな……)

 ふっと雑用係の顔が頭に浮かんで、ルークは少し焦る。

 アメリに対しては、いくつか疑問に思うことがある。
 平民とは思えない物覚えの良さと、上質なものを見極める目。フローライトに関する知識の深さもそうだ。平民の彼女が一体どこでそれを習得したのかがわからない。
 それに、浄化魔法でもかけているのではないかと思うほど、彼女が整えたベッドで眠ると頭がすっきりする。部屋の過ごしやすさもそうだ。
 ともに過ごすようになって、まだ一週間ほどだが、ルークは彼女がいないと困ると思うくらいになっている。

(……考えていたら、彼女のお茶が飲みたくなってきたな)

 今の時間ならば、昼食を終えて執務室の方に来ているだろう。

「ロバート。執務室へ戻ろう」
「ええ。いやー楽しみになってきましたね」

 浮かれるロバートを横目に、ルークの意識はアメリの元へと向かっていた。

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