あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
この国では、巫女姫の存在を重くとらえている。巫女姫がいるから、精霊が力を貸してくれるのだと。しかし、声が聞える者が巫女姫と呼ばれるだけで、本来精霊は、自分を愛する者すべてに、力を与えているのではないだろうか。

(……例えば、アメリのような、なんにでも感謝する奴とか……)

 思い返せば、アメリが選んだ服は、なぜかとても着心地が良かった。清掃が行き届いた部屋もそうだ。彼女が交換したシーツは心地よく、ここのところはすぐ寝付くことができた。

(アメリの行動に、精霊が力を貸していると思えば、納得できるんだよな)

 ルークには、カーヴェル卿が巫女姫だとは、どうしても思えなかった。
 巫女姫にふさわしいのはむしろ、アメリのほうだと。

「……アメリ」
「はい」
「その、祈るのはおそらくいい効果がある。これからも続けるといい」
「そうですか? へへっ」

 無邪気ともいえる無防備さで、アメリが笑った。

(間違いない……と思う)

 アメリがしている行動は、そもそも精霊と人とのあり方に近い。
 だとすれば、時々アメリの近くで見えた光は、精霊なのではないだろうか。

「アメリ、今日もパペットを持っているか?」
「え? ええ」
「ちょっと、見せてくれないか?」
「またですか?」

 怪訝そうにしていつつも、命令には逆らえないのだろう。アメリはおずおずとパペットを差し出した。
 前回見た時と特に変わりがない。

(一度はこいつが光って見えたんだが)

 ルークが手を差し入れようとした時、一瞬お腹のあたりが光った。

「……!」
「る、ルーク様っ。そんなにお気に召したんなら私が動かしてみますね!」

 その瞬間、すごい勢いでアメリに奪い取られた。

「や、やあ、僕の名前はフローだよ~」

 突然声色を変えておどけるアメリに、側近たちが目を剥く。
 彼女は真っ赤になりながらも、「今日はお天気がいいね!」などと続けていた。その間も、パペットのお腹のあたりが光っている。
 しかしそれを追求する奴はいないので、もしかしたら見えているのは自分だけなのかもしれない。

(……やはり、あのパペットにはなにかが宿っている。そして、あのタイミングから見ても、アメリもそれをわかっている)

 ルークはそう確信した。とはいえ、今側近たちもいるこの場で追及することはできないが。

「ありがとう。アメリ」
「いえ。なんだかよくわからないですけど。ルーク様がフローを気に入ってくれたならうれしいです」

 恥ずかしかったのだろう、涙目になりつつも笑った彼女は、今まで見たどんな令嬢よりも、かわいらしく見えた。

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