あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
* * *

(あ、焦ったー!!)

 お茶道具の片づけを理由に執務室から抜けてきたアメリは、心労で身が削れるかと思った。

(痩せたかもしれない)

 それはうれしいけど、心労で痩せるなんて嫌だ。

(ルーク様、やたらとパペットに執着しているよね。なにか気づいているのかな……)

 アメリは空き部屋に飛び込むと、パペットを取り出し、「フロー!」と呼びかける。
 お腹のあたりに光は見える。しかし反応が薄い。

「フロー、フローってば、フローちゃん?」

 しかし動かないし、光も弱い。

「え、嫌だ、フロー。起きてよ!」

 不安になって叫ぶと、ゆっくりとパペットが動き出す。

《なんだよぉ、アメリ。うるさいよ》
「よかった。生きてた」
《当たり前だろ。精霊に生きるとか死ぬとかの概念ないよ》
「だって、なんだか調子悪そうだから」
《死んだりはしないけど、……動けなくはなるかも》

 突然の爆弾発言に、アメリは焦る。

「なによ、それ、どういうこと?」
《悪しき力で、力を奪われているって前に言ったろ? その力の持ち主を、今日城で見たんだ》
「なんですって?」

 これまでずっと、詳しくは教えてもらえなかったことだ。聞こうとしても、アメリにできることはないからと、流されてきたのだ。

《僕たち精霊は、万物に宿る。君たちみたいに、親がいるわけじゃなくて、いつの間にか生まれているものなんだ。僕らの生命が維持されるには、自然の力と人の想いが大切になる。大事にされ、愛情をかけられ必要だと言われれば、精霊はどんどん力を増すことができる。反対に忘れられ、必要とされなければ……》

「……どうなるの?」
《消える……というか眠るというか。自然に還るんだよ》
「そんなの嫌よ」

 アメリが涙目になる。フローは笑うとふわりと浮いて、アメリの涙を拭きとった。

《アメリは、最初の巫女姫に似てるな。元気で、素直で、僕を大事にしてくれた。だから僕は人の形をとって、彼女の生きるこの土地を守ろうって決めた。次の巫女姫も、その次の巫女姫も、……みんな僕に優しかったよ》
「母様も?」

 問えば、フローは寂しそうに笑った。
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