あなたがお探しの巫女姫、実は私です。
「……っふっ」

 ついこぼれたような息遣いに目をあげると、マーサも頑張って笑うのを堪えている。

「とにかく、少しは女性に慣れていただきたい。百歩譲って結婚なさらないとしても、女性のエスコートをせねばならない場面は山とあります。本国と違って、ここでは替わってくださる方はいないのですよ。ルーク様が王なのですからね!」
「だったら呼び名も改めるんだな。知っているぞ、時々〝殿下〟と呼ぶだろう。お前はいまだに俺を一介の王子としか思ってないんだな」
「それは癖です! ああもう、だったら呼びますよ。ルーク閣下! 敬愛なる我が王! 公王としての責務だと思って結婚してください」
「心にもないことを言うな。うるさい!」

 ルークが頭を抱えて叫ぶ。

「すり寄って来る貴族令嬢に、魅力など感じない! 俺は煩わしいのは嫌いなんだ」
「あれはすり寄っているのではありません。あなたを癒すために明るくお話してくれているのですよ。女性というのは、そういうものです。小鳥のようにさえずり、その愛らしさで男を励ましてくれるものです」
「お前の目は節穴すぎる。彼女たちのどこに癒そうなんて気があるんだ。あれは、権力を狙うハイエナの目だ!」
「閣下の目が穿(うが)っているんですよ。そんな女性ばかりじゃありませんって!」

 アメリは真顔を作るのに必死だ。笑いを堪えるのがこんなにつらいなんて知らなかった。

「ああもう、わかりました。今すぐお妃を娶ってくださいとは言いません。ですが、せめて女性と普通に話をしてください。どうせ、従者だったスカリーの後釜を探さなきゃいけないんです。今後は男ではなく女性をつけましょう」
「なぜそうなる」
「だってあなたのせいで、スカリーは本国に帰ってしまったんじゃありませんか」
「あいつのミスが多いからだろう? それに、メイドを口説いては手を出そうとしていた。城の風紀を乱すなと言っただけだぞ、俺は」
「言い方の問題でしょう。あいつのあんなにおびえた顔、私は初めて見ましたよ。それで、侍女についてですが……」

 話はあらぬ方向へと向かってきた。
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