あなたがお探しの巫女姫、実は私です。

《もちろん。だけど、ローズマリーは、最後は僕を憎んでもいたかもしれない》
「どうして、そんなわけないわ」
《巫女姫だから、結婚を許されなかった。だからローズマリーは不幸になったんだ。彼女が死んだのは、僕のせいだよ》

 フローの声が悲しそうで、アメリは一緒につらくなる。

「どうして巫女姫は結婚してはいけないの?」
《巫女姫が純潔である必要なんてないんだよ。僕らが見える人に共通するのは、魔力が強く、常に万物に感謝し、僕らを信じているってことだ。この国の王族は魔力を持っているだろう? だから》
「でも伯父様や王子たちは見えなかったのよね?」
《あいつらは魔力もちではあったけれど、傲慢だったし。欲がありすぎるんだよ。人間の欲はドロドロしているんだ。気持ち悪くて、僕らは好きじゃない》
「じゃあ、巫女姫って」
《魔力の多さから王族に出がちだけど、本当は、男女は関係ないんだ。男はどうしても権力の近くにいるだろ。継承権のない姫は、基本的に蝶よ花よで育てられるから純粋で、僕らを見えるようになりやすい》

 なるほど。アメリは納得する。

《実際、純潔かどうかは関係ないんだ。子供のほうが純粋だから見えやすいってだけで。だけど、最初の王が勘違いして、純潔のままでいるべきだと言ったんだよ》
「訂正しなかったの?」
《最初の巫女姫は男嫌いだったんだ。だからちょうどいいって、そのままにしていた。以降の巫女姫にはちゃんと教えたけど、巫女姫がなにを言っても、王が信じてくれなかったんだよ。なぜか王を継ぐ者は、僕と相性が悪いらしくて、まったく見えないみたいだから》
「私も子供の頃は見えなかったわよ? フローはずっと母様といたんでしょう?」
《一応ね。でも、地下に閉じ込められた頃には、ローズマリーも僕のことが見えなくなっていたみたいだよ。声も聞こえてなかったと思う。辛い思いをしたから、僕のことも嫌いになったんじゃないかな》

 好きな人と引き離され、足の腱も切られて、子供と地下に閉じ込められて。
 たしかに、正気でいられるほうが稀かもしれない。
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