処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました

正体がばれました


「今日は仕立て師が来る。お前も同席するように」

 ルークから朝一番に言われたときは、てっきりルークの服を作るから、デザインに対して意見を言えばいいだけだと思って頷いた。
 しかし今、仕立て師の前に立たされているのは、ルークではなくアメリだ。

「こいつに似合うドレスを見繕ってくれ。時間がないから、既製品の直しでいい」
「ちょ、ちょーっと待ってください。どうして私? ていうか、そんなの作るお金ないです!」

 あまりに驚きすぎて、大声を出してしまった。
 衣装室には、ルークとジャイルズ伯爵、アメリと仕立て屋の四人がいる。
 アメリの雄たけびに、ルークと仕立て屋はきょとんとしたまま、ジャイルズ伯爵だけがやばいというような顔をしている。

「ロバート、説明していないのか?」
「てっきり、ルーク様が言っているものだと思っていたんですよ」

 ルークとジャイルズ伯爵が顔を見合わせ、ルークが顎で説明を促した。

「……すまん、アメリ。説明するとな。ルーク様のパートナーとして夜会に出てほしいのだ」
「なんの説明にもなっていません! 夜会ってなんですか、それに、一国の王のパートナーにメイドはありません。絶対にです」

 アメリの返答に、ルークがにやりと笑って、口もとを緩めた。

「絶対ってことはないだろう。なにせここに、それでいいと言っている人間がいるんだから」

 ルークが自分を差してそう言うが、「私はまだ了承していませんが?」と睨む。
 もう不敬とか言ってはいられない。自分の意思を主張しなければ、訳のわからないことに巻き込まれてしまう。

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