処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
「じゃあもっと順序だてて説明しよう。テンバートン侯爵の屋敷で、二週間後に夜会がある。カーヴェルという商人の紹介と彼への支援の嘆願を目的とするものだ。彼は金細工の販売に力を入れているそうで、テンバートン侯爵領にある金鉱脈を見つけ出した張本人らしい」
「え? 金……ですか?」

 フローの話では、この国には金はほとんどなかったはずだ。十年ほど前に一時的に増えたのも、悪魔ベリトが錬金術で作っただけのものだと。

「そうだ。俺はそれに参加しなければならない。だが、ひとりで行くと、テンバートン侯爵の娘をエスコートする羽目になる」
「いいじゃないですか。駄目なんですか?」
「……嫌だ」

 急に語彙を失ったかのように、ポツリと言われた。そっぽを向くところなどまるで子供みたいだ。

「だからって、メイドはないです」
「だが、頼めるような女性貴族がいないからな」

 そんなの、ルークが今まで社交に力を入れないせいだ。
 悪びれもないその表情に、不敬とは思いつつ睨んでしまう。

「ルーク様から誘えば、誰でもついてきますよ」
「だったらお前も頷いてくれればいいじゃないか」
(いや、だからメイドは違うでしょ!)

 なにを言っても言い返される。話が通じなさ過ぎて怖い。
 しばらくアメリとルークは睨み合い、根負けしたようにルークがため息をついた。

「……テンバートン侯爵領の金鉱脈の話で、貴族たちは盛り上がっていてな」
「はあ」
「俺は、誰と話していても、王族を処刑したことを、蒸し返される」

 ルークが窓のほうを向く。その横顔には、どことなく悲壮感が漂っている。

「ルーク様が公王の血縁を皆処刑したのは、レッドメイン王の命令でもあり、のちの火種を発つという意味でも必要なことではありました。それに当時、我々は巫女姫が王族からしか生まれないということは知らなかったのです。ですが貴族たちにしてみれば、今後巫女姫が産まれる可能性を絶たれてしまったののですから、反感を持つのも理解はできます」
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