処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
 ジャイルズ伯爵が、貴族たちへの歩み寄りを見せる。ルークもそこは異存が無いようで、頷いている。

「巫女姫……ローズマリー姫が生きていればいいんだがな」
「痕跡を探していますが、結局、二十年前、一度北の森での目撃情報があった後のことはわからないままです」
「というわけでな、他の貴族との関係もあまりよくないんだ。借りも作りたくない。頼む、アメリ」

 どういうわけかわからない。今の関係あっただろうか。
 同情心をあおって引き受けさせようとしているのでは……などと穿った見方もしてしまう。

「嫌ですよ」
「頼む。雑用係だろ?」
「雑用じゃないですよね、もはや」
「じゃあ命令にするか?」

 こう言われれば、結局メイドには逆らう術などないのだ。アメリはこれ見よがしに深いため息をついた。

「……わかりました」
「では、衣装を決めてくれ。お前が決めないなら俺が決める。主人、俺の服と一部色を合わせてくれ」
「え?」

 アメリは驚いたが、仕立て屋の主人は笑顔で頷く。

「揃いにされますか?」
「パートナーだからな」
「あわわ……」

 呆然としている間に、あれよあれよとドレスが決められていく。
 デザインが固まると、仕立て屋の主人はにっこり微笑んだ。

「では採寸をいたしますね。こちらに」
「えっ、あっ、ちょっとっ」

 採寸用に持ち込まれたと思われる衝立の奥へとぐいぐい引っ張られていく。

「諦めろ、アメリ」

 これまでで一番いい微笑みを、こんな場面で見るとは。
 不覚にもときめいてしまったことは、誰にも言いたくないなとアメリは思った。
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