処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
 仕立て屋が帰る頃には、アメリは心身共にぐったりしていた。

(普通に体を動かして掃除をしているほうがまだ楽だわ。王侯貴族って本当に大変)

 自分には向いていない。平民として育てられたことに、感謝してしまうほどだ。

「ご苦労。後はダンスだな。踊ったことは……無いよな。俺もそんなに得意じゃないから、最初のワルツだけ踊れればいい」
「……え? ダンスパーティーなんですか?」
「ああ」

 ルークは当然のように頷くが、アメリは一気に青ざめた。

(いや、待って、無理!)

 聞いてない。ダンスなんて無理だ。

「今回は立食形式のかしこまらないパーティらしい。ダンスも必須というわけではないのだが、礼儀だから一曲くらいは踊らないといかん」
「それ、まさか……私もですか?」
「もちろんだ。俺のパートナーなんだからな。お前、俺をひとりで踊らせる気か?」
「できるなら……」
「駄目だ」

 あっさりと断じられる。

「いやっ、絶対に無理ですぅ」
「まあまあ、夜会までダンスの練習も仕事にしよう。ちゃんと勤務時間内に教えてやるから」
「そういうことじゃないんですよ!」

 そこからしばらく、アメリは思いつくまま文句を言いまくったが、聞いてもらえるはずもなく、場所をルークの部屋に移し、ステップの練習をさせられることとなったのだった。
 
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