七日間の入れ替わり令嬢 ~ワガママ美女の代わりにお見合いします~
5日目
見合い初日。アニーはサラに整えてもらった自分の姿を鏡で見て、溜息が出た。ブロンドの髪には細やかな細工の髪飾りがあしらわれ、ドレスは上品で女性らしい薄紅色。白い肌に輝くルビーの宝石。元々の素材が極上だが、それを更に飾り立てる一流の品々。どこからどう見ても完璧な令嬢である。
中身が、アニーでなければ。そう思うと、胃がキリキリと痛んだ。
「お綺麗ですよ、ソフィア様」
「……ありがとう」
「三日間の辛抱です。頑張ってください」
サラの激励の言葉を受け取って、アニーは気合いを入れ直す。
コンコン、とノックの音がして、外からノアの声がかかる。
「エリオット様がいらっしゃいました」
(――きた)
ごくりと唾を呑んで、アニーは高いヒールの足を踏み出した。
「ようこそお越しくださいました、エリオット殿」
門前にて、にこにこと満面の笑みでフィリップがエリオットを迎え入れる。
その少し後ろに控えていたアニーは、馬車から降りた男性を見て息を呑んだ。
光に輝く金糸の髪。サファイアの澄んだ瞳。著名な彫刻家に彫らせたような、はっきりとして美しい目鼻立ち。手足はすらりと長く、その一挙手一投足が洗練されている。まるで絵本の王子様がそのまま飛び出してきたようだった。
「こちらこそ。お招きいただき感謝します、オズボーン男爵」
挨拶を受けたエリオットは柔らかい声でそう言って、声に相応しい柔和な笑顔を作った。望んだ見合いではないだろうに、格下の男爵相手に礼を尽くす態度にアニーは早くも好感を持った。
「紹介します。娘のソフィアです」
示されたアニーは、練習通りに丁寧な所作でお辞儀をした。
「お初にお目にかかります、エリオット様。ソフィアでございます」
「これは……いや、父から聞いてはいたが、美しい方だ。緊張してしまいますね」
照れたように笑ったエリオットに、アニーは拍子抜けした。まるで色目は全く効かないかのような前評判だったが、結局彼もただの男ということか。多少なりとも容貌に惹かれるのであれば、思ったほど難しくはないだろう。よっぽどの顰蹙を買わなければ、この見た目で許容されそうだ。
「茶会の準備は整っております。ささ、どうぞ庭へ」
フィリップの案内で、一行は庭へと移動した。
オズボーン男爵邸の庭にはバラ園があり、ちょうど今が見頃である。初日は軽く顔合わせでも、と庭での茶会を用意していた。
席についているのはアニーとエリオットの二人。エリオットの側にはダグラス伯爵家の使用人が二人、アニーの側にはサラとノアが控えている。そして茶会の給仕のため、オズボーン男爵家のハウスメイドが三人。
サラもノアもいるのに、ただの茶会に三人も必要なものか。アニーは不思議に思ったが、フィリップは万全を期しておきたいようだった。
今回の訪問ではフィリップがホストにあたるが、目的は見合いである。最初に軽く挨拶だけした後、あとはお若い者同士で、と場を辞してしまった。
「見事なバラ園ですね。美しい」
「おそれいります。庭師の腕が良いのです」
とは答えたものの、庭師とは会ったこともない。庭に出るのも、アニー自身初めてである。美しいバラに見惚れてしまいそうだが、今はエリオットとの会話に集中しなければ。
「見合いの件、父が勝手に話を進めてしまったようで、申し訳ない。お気を悪くされてませんか?」
「いえ。私のような田舎貴族にはもったいないほどのお話です。光栄に思っております」
「そう言っていただけると助かります。父はなんというか……美しいものに、目がなくて」
軽く笑ったエリオットに、アニーは表面上は穏やかに微笑んだ。出会ってから見た目しか褒められていないが、エリオットは良かれと思って言っているのだから、喜んでおかなくては。現状お互いのことは何も知らないのだから、それ以外に褒めようがないのも理解できる。
「人は誰でも美しいものを好むものです。エリオット様もそうではないのですか?」
「私は……どうでしょう。美しいものは確かに素晴らしいとは思いますが、私は、もっと本質を大事にしたいと思っております」
目を伏せたエリオットに、アニーは静かに紅茶を口にした。
「私は幼少から見目を褒められることが多く。ですが、それは私の内面とは関係がない、表面上のものです。私は伯爵家の嫡男として、父からも、周りからも認められる立派な人間であろうと努力してきました。しかし、稀に……それが、容姿のおかげであると言われることもあり」
美形には美形の悩みがあるものだ。アニーは静かにカップを置いた。自分が努力して手に入れたものを、全て持って生まれた資質のせいにされたら、確かに遺憾かもしれない。だとしても。
「良いではありませんか」
アニーの言葉に、エリオットは意外そうに目を丸くした。
「エリオット様は、確かに努力なさったのでしょう。ですが、そうして得た結果の中に、容姿が影響したことも確かにあったはずです」
「それは……」
「見目の美しさは、持って生まれた才能です。それは頭脳や体力と同じで、磨かなければ衰えるし、鍛えれば武器になります。それを利用することに、何の問題が?」
エリオットは、葛藤するように拳を握りしめた。男女では、容姿に対する考え方も異なるだろう。自身の努力を認めてほしい。その気持ちは、わからないでもないが。
「ですが……私は、私自身をもっと、見てほしいと」
「不思議なことをおっしゃいますのね。ではエリオット様は『ダグラス伯爵家』の肩書を利用したことはないのですか? ただの一度も?」
詰めるような口調に、ダグラス伯爵家の使用人がぴくりと反応する。そのことにまた、ノアも僅かに反応した。
それらが目に入りながらも、アニーは言葉を続けた。
「人は平等ではありません。皆スタート地点は違うのです。男性に生まれたことも、嫡男に生まれたことも、ダグラス伯爵家に生まれたことも、ある人から見れば羨ましく妬ましい『生まれ持っての利点』です。エリオット様の努力で得たものではありません。何故そこから、容姿だけは除外されるのですか?」
アニーの視線を正面から受け止めて、エリオットは落ち着かせるように息を吐いた。
「……あなたの、言うとおりですね。何故だろうな。私はいずれ伯爵家を継ぐのだからと。それが当たり前で、そのことを利点だなどと思ったことはなかった」
「エリオット様がしている努力でさえも、努力ができる環境にあってこそです。それすら、できない者もいるのです。ならば『持てる者』として、利用できるものは全て利用して、結果を残してくださいませ。結果は事実で、記録です。外面も内面も関係ありません」
アニーの言葉にエリオットは苦笑し、冗談めかした口調で言った。
「まさか、見合いの初日から説教をされてしまうとは」
「……出過ぎたことを申し上げました。申し訳ありません」
アニーは素直に頭を下げた。男爵家の令嬢が、伯爵家の嫡男にきいていい口ではなかった。
ただ、アニーには耐えられなかった。こういう、自分の優位性に無自覚な人はいらいらする。持っているのなら、堂々と使えばいいのだ。それら全てを含めて、自分なのだから。なのに、何もかも自分で手に入れたような顔をしたり、無意味に下を憐れんでポーズだけ同じ位置に立とうとするような者が許せなかった。
アニーはこの三日間、令嬢としての教育を受けた。そして、ぎりぎりとはいえ、伯爵家の前に出しても恥ずかしくない出来になったと判断されたのだ。
つまり、アニーだって、きちんと学べば令嬢として振る舞える。知識をつければ外で働くことだってできるかもしれない。しかしアニーにはその身分がない。
ソフィアのような美貌があれば、良家に見初められたかもしれない。好きな相手と恋だってできたかもしれない。しかしアニーにはその美貌がない。
努力だけで何とかなるのなら。自分の力だけで変わるなら。アニーだって。
(私だって!!)
アニーはテーブルの下で手を握りしめた。
持てる者は、持たざる者の気持ちがわからない。ならば、無理に理解などしなくていい。同調などしなくていい。持てる者にしかできないことを、為してほしい。
俯いたままのアニーに、気遣うようにエリオットは笑いかけた。
「いや、耳の痛い意見でしたが、私には新鮮でした」
「お気遣い、痛み入ります」
顔を上げて、アニーは微笑みかけた。その時、びゅうと強い風が一瞬だけ吹いた。アニーは目を閉じて、髪を押さえた。
「大丈夫ですか?」
「ええ」
顔から髪を払ってテーブルを見ると、アニーのティーカップの中にバラの花びらが一枚浮いていた。風で飛ばされて入ってしまったのだろう。
手で摘まむのははしたないだろう、とアニーはティースプーンでひょいとそれを拾い上げた。そのままカップを持ったアニーに、慌てたようにサラが声をかける。
「ソフィア様! すぐに淹れ直しますから!」
「え? ……あっ! そ、そうね!」
気づいて、アニーもすぐにカップを置いた。かぁ、と顔が熱くなる。
この程度、アニーなら気にしない。花びらさえ取り除いてしまえば、問題なく口にできる。しかし、ソフィアは違う。令嬢は一杯の紅茶を惜しんだりしない。
「ふっ」
息をもらすような笑いに視線を向けると、エリオットがくつくつと笑っていた。
「いや、申し訳ない。存外、可愛らしいところがあるものだと」
それは、さきほどまでの厳しい物言いに対しての皮肉ともとれる。アニーは恥ずかしげにむくれた。
「エリオット様も、そのように無邪気に笑われるのですね。その方が、先ほどまでよりよほど魅力的ですわ」
つんと答えたアニーに、エリオットは一瞬呆けた後、眉を下げて微笑んだ。
その顔が思ったよりも可愛らしかったものだから、アニーはつい絆されそうになった。美形が得なのは、こういうところだろう。
「相手の内面など、こうして話してみないとわからないものですね」
「そうですわ。内面なんて、知ろうとしなければ見えません。ですから、人がまず外見で判断するのは当たり前です。あなたがまず私の容姿を褒めたように」
「……手厳しい」
から笑いして肩をすくめたエリオットに、アニーはそっぽを向いた。
「では、あなたの内面をもっと知るために、私は何をしたら良いでしょう」
窺うように首を傾げたエリオットに、アニーは小さく唸って息を吐いた。
「お話をしましょう。私も、エリオット様のことをもっと知りたいです」
微笑んだアニーに、エリオットも緩く微笑んだ。
中身が、アニーでなければ。そう思うと、胃がキリキリと痛んだ。
「お綺麗ですよ、ソフィア様」
「……ありがとう」
「三日間の辛抱です。頑張ってください」
サラの激励の言葉を受け取って、アニーは気合いを入れ直す。
コンコン、とノックの音がして、外からノアの声がかかる。
「エリオット様がいらっしゃいました」
(――きた)
ごくりと唾を呑んで、アニーは高いヒールの足を踏み出した。
「ようこそお越しくださいました、エリオット殿」
門前にて、にこにこと満面の笑みでフィリップがエリオットを迎え入れる。
その少し後ろに控えていたアニーは、馬車から降りた男性を見て息を呑んだ。
光に輝く金糸の髪。サファイアの澄んだ瞳。著名な彫刻家に彫らせたような、はっきりとして美しい目鼻立ち。手足はすらりと長く、その一挙手一投足が洗練されている。まるで絵本の王子様がそのまま飛び出してきたようだった。
「こちらこそ。お招きいただき感謝します、オズボーン男爵」
挨拶を受けたエリオットは柔らかい声でそう言って、声に相応しい柔和な笑顔を作った。望んだ見合いではないだろうに、格下の男爵相手に礼を尽くす態度にアニーは早くも好感を持った。
「紹介します。娘のソフィアです」
示されたアニーは、練習通りに丁寧な所作でお辞儀をした。
「お初にお目にかかります、エリオット様。ソフィアでございます」
「これは……いや、父から聞いてはいたが、美しい方だ。緊張してしまいますね」
照れたように笑ったエリオットに、アニーは拍子抜けした。まるで色目は全く効かないかのような前評判だったが、結局彼もただの男ということか。多少なりとも容貌に惹かれるのであれば、思ったほど難しくはないだろう。よっぽどの顰蹙を買わなければ、この見た目で許容されそうだ。
「茶会の準備は整っております。ささ、どうぞ庭へ」
フィリップの案内で、一行は庭へと移動した。
オズボーン男爵邸の庭にはバラ園があり、ちょうど今が見頃である。初日は軽く顔合わせでも、と庭での茶会を用意していた。
席についているのはアニーとエリオットの二人。エリオットの側にはダグラス伯爵家の使用人が二人、アニーの側にはサラとノアが控えている。そして茶会の給仕のため、オズボーン男爵家のハウスメイドが三人。
サラもノアもいるのに、ただの茶会に三人も必要なものか。アニーは不思議に思ったが、フィリップは万全を期しておきたいようだった。
今回の訪問ではフィリップがホストにあたるが、目的は見合いである。最初に軽く挨拶だけした後、あとはお若い者同士で、と場を辞してしまった。
「見事なバラ園ですね。美しい」
「おそれいります。庭師の腕が良いのです」
とは答えたものの、庭師とは会ったこともない。庭に出るのも、アニー自身初めてである。美しいバラに見惚れてしまいそうだが、今はエリオットとの会話に集中しなければ。
「見合いの件、父が勝手に話を進めてしまったようで、申し訳ない。お気を悪くされてませんか?」
「いえ。私のような田舎貴族にはもったいないほどのお話です。光栄に思っております」
「そう言っていただけると助かります。父はなんというか……美しいものに、目がなくて」
軽く笑ったエリオットに、アニーは表面上は穏やかに微笑んだ。出会ってから見た目しか褒められていないが、エリオットは良かれと思って言っているのだから、喜んでおかなくては。現状お互いのことは何も知らないのだから、それ以外に褒めようがないのも理解できる。
「人は誰でも美しいものを好むものです。エリオット様もそうではないのですか?」
「私は……どうでしょう。美しいものは確かに素晴らしいとは思いますが、私は、もっと本質を大事にしたいと思っております」
目を伏せたエリオットに、アニーは静かに紅茶を口にした。
「私は幼少から見目を褒められることが多く。ですが、それは私の内面とは関係がない、表面上のものです。私は伯爵家の嫡男として、父からも、周りからも認められる立派な人間であろうと努力してきました。しかし、稀に……それが、容姿のおかげであると言われることもあり」
美形には美形の悩みがあるものだ。アニーは静かにカップを置いた。自分が努力して手に入れたものを、全て持って生まれた資質のせいにされたら、確かに遺憾かもしれない。だとしても。
「良いではありませんか」
アニーの言葉に、エリオットは意外そうに目を丸くした。
「エリオット様は、確かに努力なさったのでしょう。ですが、そうして得た結果の中に、容姿が影響したことも確かにあったはずです」
「それは……」
「見目の美しさは、持って生まれた才能です。それは頭脳や体力と同じで、磨かなければ衰えるし、鍛えれば武器になります。それを利用することに、何の問題が?」
エリオットは、葛藤するように拳を握りしめた。男女では、容姿に対する考え方も異なるだろう。自身の努力を認めてほしい。その気持ちは、わからないでもないが。
「ですが……私は、私自身をもっと、見てほしいと」
「不思議なことをおっしゃいますのね。ではエリオット様は『ダグラス伯爵家』の肩書を利用したことはないのですか? ただの一度も?」
詰めるような口調に、ダグラス伯爵家の使用人がぴくりと反応する。そのことにまた、ノアも僅かに反応した。
それらが目に入りながらも、アニーは言葉を続けた。
「人は平等ではありません。皆スタート地点は違うのです。男性に生まれたことも、嫡男に生まれたことも、ダグラス伯爵家に生まれたことも、ある人から見れば羨ましく妬ましい『生まれ持っての利点』です。エリオット様の努力で得たものではありません。何故そこから、容姿だけは除外されるのですか?」
アニーの視線を正面から受け止めて、エリオットは落ち着かせるように息を吐いた。
「……あなたの、言うとおりですね。何故だろうな。私はいずれ伯爵家を継ぐのだからと。それが当たり前で、そのことを利点だなどと思ったことはなかった」
「エリオット様がしている努力でさえも、努力ができる環境にあってこそです。それすら、できない者もいるのです。ならば『持てる者』として、利用できるものは全て利用して、結果を残してくださいませ。結果は事実で、記録です。外面も内面も関係ありません」
アニーの言葉にエリオットは苦笑し、冗談めかした口調で言った。
「まさか、見合いの初日から説教をされてしまうとは」
「……出過ぎたことを申し上げました。申し訳ありません」
アニーは素直に頭を下げた。男爵家の令嬢が、伯爵家の嫡男にきいていい口ではなかった。
ただ、アニーには耐えられなかった。こういう、自分の優位性に無自覚な人はいらいらする。持っているのなら、堂々と使えばいいのだ。それら全てを含めて、自分なのだから。なのに、何もかも自分で手に入れたような顔をしたり、無意味に下を憐れんでポーズだけ同じ位置に立とうとするような者が許せなかった。
アニーはこの三日間、令嬢としての教育を受けた。そして、ぎりぎりとはいえ、伯爵家の前に出しても恥ずかしくない出来になったと判断されたのだ。
つまり、アニーだって、きちんと学べば令嬢として振る舞える。知識をつければ外で働くことだってできるかもしれない。しかしアニーにはその身分がない。
ソフィアのような美貌があれば、良家に見初められたかもしれない。好きな相手と恋だってできたかもしれない。しかしアニーにはその美貌がない。
努力だけで何とかなるのなら。自分の力だけで変わるなら。アニーだって。
(私だって!!)
アニーはテーブルの下で手を握りしめた。
持てる者は、持たざる者の気持ちがわからない。ならば、無理に理解などしなくていい。同調などしなくていい。持てる者にしかできないことを、為してほしい。
俯いたままのアニーに、気遣うようにエリオットは笑いかけた。
「いや、耳の痛い意見でしたが、私には新鮮でした」
「お気遣い、痛み入ります」
顔を上げて、アニーは微笑みかけた。その時、びゅうと強い風が一瞬だけ吹いた。アニーは目を閉じて、髪を押さえた。
「大丈夫ですか?」
「ええ」
顔から髪を払ってテーブルを見ると、アニーのティーカップの中にバラの花びらが一枚浮いていた。風で飛ばされて入ってしまったのだろう。
手で摘まむのははしたないだろう、とアニーはティースプーンでひょいとそれを拾い上げた。そのままカップを持ったアニーに、慌てたようにサラが声をかける。
「ソフィア様! すぐに淹れ直しますから!」
「え? ……あっ! そ、そうね!」
気づいて、アニーもすぐにカップを置いた。かぁ、と顔が熱くなる。
この程度、アニーなら気にしない。花びらさえ取り除いてしまえば、問題なく口にできる。しかし、ソフィアは違う。令嬢は一杯の紅茶を惜しんだりしない。
「ふっ」
息をもらすような笑いに視線を向けると、エリオットがくつくつと笑っていた。
「いや、申し訳ない。存外、可愛らしいところがあるものだと」
それは、さきほどまでの厳しい物言いに対しての皮肉ともとれる。アニーは恥ずかしげにむくれた。
「エリオット様も、そのように無邪気に笑われるのですね。その方が、先ほどまでよりよほど魅力的ですわ」
つんと答えたアニーに、エリオットは一瞬呆けた後、眉を下げて微笑んだ。
その顔が思ったよりも可愛らしかったものだから、アニーはつい絆されそうになった。美形が得なのは、こういうところだろう。
「相手の内面など、こうして話してみないとわからないものですね」
「そうですわ。内面なんて、知ろうとしなければ見えません。ですから、人がまず外見で判断するのは当たり前です。あなたがまず私の容姿を褒めたように」
「……手厳しい」
から笑いして肩をすくめたエリオットに、アニーはそっぽを向いた。
「では、あなたの内面をもっと知るために、私は何をしたら良いでしょう」
窺うように首を傾げたエリオットに、アニーは小さく唸って息を吐いた。
「お話をしましょう。私も、エリオット様のことをもっと知りたいです」
微笑んだアニーに、エリオットも緩く微笑んだ。