マグノリア・ブルーム〜辺境伯に嫁ぎましたが、私はとても幸せです

アンドレイ様の告白

「今まで気づきませんでしたか?」
「何を?」
「アンドレイ・ジョハンセン辺境伯と、リヒャルトは同一人物だということを」
「は?」

 アンドレイ様は何を仰っているのだろう。
「アンドレイ様とリヒャルト様は同じ人、って仰るのですか?」
 私は、リヒャルト様との “あれこれ” を思い出す。同時に、アンドレイ様と交わした会話も。

「わからない……」
「わからなかった?」
 リヒャルト様が一歩前に出て、私にぶつかりそうなほど近くにいる。私はぼんやりと、だがじっと彼の美しい顔を見つめた。

「化け物に変えられる呪いをかけられた我々一族ですが、それを可哀想に思ったオーウェルさんが『新たな呪い』を私にかけてくれました」
「新たな呪い?」

「ええ。夜になると、醜く(ただ)れた皮膚は綺麗になり、曲がっていた背骨もまっすぐに。すると不思議なことに、私は次第に自由自在に姿を変えることができるようになりました。だが、呪いのおかげでローウェル王国の平和が保たれてきた訳ですから、辺境伯としては『無敵の化物』のままでいなくてはならない」

 私は息を詰めて、リヒャルト様の話に聞き入っていた。その間も、リヒャルト様はずっと私から目を離さずに語りかけてくれる。

「私は寂しくなってきたのです。辺境伯一族に生まれたことは仕方のないこと。カザールは大好きですし、いつまでも領民には幸せでいてもらいたい。だが、私も幸せを感じたい。それで、国王に願い出て、あなたを妻に迎えたわけです」

 リヒャルト様は私の手を取り、跪いて(ひざまずいて)私の手の甲にキスした。
「最初から仰って下さればよかったのに!」

 私は少し頭に来ていた。何故、そんなややこしいことをしたのか。最初から、呪いのことを打ち明けて下さっていれば、私が夫の弟君に惹かれてしまっているだなんて、悩むこともなかった……ん? ん! 弟君。

「では、リヒャルト様という方は、最初から存在しない方なのですか?」
「リヒャルトは紛れもなく、この世に存在しています。但し、弟は冒険家で世界一周に出かけたり、ドラゴンの宝物を探しに行ったり、落ち着きのない奴で。もう十年もカザールに帰ってきていない」
「そうなのですか」

 私はまだ混乱していたが、私を心配そうに見つめているリヒャルト様、いいえ、アンドレイ様の青い瞳の前には、何もかもどうでもよくなってきていた。
 そんなことより、私が心惹かれている方は辺境伯だった、という事実が嬉しくて。
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