マグノリア・ブルーム〜辺境伯に嫁ぎましたが、私はとても幸せです

エピローグ②

 カザールに戻り、少し落ち着いた私は、アリーヴ国で起きたことをいろいろ思い出して、ため息をつくばかり。
「まさか、お義姉様も、あの男性を好きだったなんて」

「お嬢様のドレスにワインを掛けたり、突き落とそうとしたり、浅はかでくだらない男ですのにね」
 継母やエレナを嫌っているフェリスは、馬鹿にしたように言った。

 エレナの行方はまだ分かっていないし、ショックで倒れてしまった継母は、そのままアリーヴで療養させてもらっているとのことだった。
「これから、どうなるのでしょう」
「わからないわ。お父様がお継母様を迎えに行かれるのでしょうけど。でも、いずれはお義姉様たちも見つかるとは思うけど」

 エレナには悪いけれど、私はそれどころではないのだ。
 辺境伯の正体を知ってから、私は夢見心地なのである。初めての恋、と言っていい相手と既に結婚していたなんて……。

 しかも、あの日、アンドレイ様は言って下さった。
「あなたの肖像画を初めて見た時から、私は恋に落ちていました」
 と。


 彼の言葉を思い出すと、胸が締め付けられるよう。私に告白するアンドレイ様は、耳まで赤くなっていた。
「私はこんな姿ですから、あなたを怖がらせてしまうのも分かっていた。実際、あなたは私と初めて会った日、震え上がっていましたね」

「……申し訳ありません」
「弟を利用したのはまずかったかな」
「あっ、そうです! 何故、リヒャルト様として私の心を弄ぶようなことを?」
「弄ぶつもりなどなかった! 私は我慢できなかっただけなのです。全てを説明するのももどかしいくらい、あなたと早く仲良くなりたかった。愛し合いたかった」

 頬が熱い。
 不意にアンドレイ様の手が伸びて、気づくと私は彼の胸の中にいた。

 硬く引き締まった腕に強く抱きしめられ、息もできないほど。それなのに、更に情熱的な口づけを受けて気を失いそう。
 しかし、今私たちがいるのは、アリーヴ城館のゲストルームである。

「続き……は、帰っ……て、から」
 アンドレイ様の唇が離れて、彼は喘ぐように言う。
「はい……」
「ああ、そんな潤んだ目で見ないで下さい」
 彼の唇が降りてきて、私たちは再び深いキスを交わした。


 一年後、カザールにマグノリアの花が咲く頃、私は双子の男の子と女の子を産んだ。
 国じゅうがお祝いムードで、初めて子供たちをお披露目する日のこと。近隣諸国から芸人や商人が集まって、お祭りが行われることとなった。

 次々と城に挨拶に来る人たちの中に、みすぼらしい姿をしたエレナがいるのを見つけて、私とフェリスはびっくりした。どうやら彼女は、駆け落ち相手と共に芸人一座に入っているようで、かつての公爵家令嬢とは思えぬほど落ちぶれた姿である。
 エレナはずっと薄笑いを浮かべていた。
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